まだ知られていない韓国の旅の名所。全羅南道と光州
韓国の西南端に位置する全羅南道(チョルラナムド)は山脈に隔てられ、ソウルとはまた違う韓国の顔を知ることができる場所。2000以上の島々を持つ 、自然豊かな地域として知られている。そして今の韓国を創り上げた歴史的な場所である光州(クァンジュ)や、ソウルなどの都会では体験できない魅力がたくさん詰まっている。そこに広がるのは島々などによって形成された多様な自然と穏やかでローカルな時間が流れる日常。観光地化された都市部だけではなく、まだ知られていない韓国の楽しみ方を探している方へ。全羅南道と光州にぜひ足を運んでみてはいかが。(取材協力:韓国観光公社)
全羅南道の隣接市である光州は、2024年にノーベル文学賞を受賞した韓国の作家・韓江(ハンガン)氏の出身地。韓国人、そしてアジア人女性にノーベル文学賞が授与されるのは初めてのことで、光州では多くのポスターなどを目にし、いま話題となっている。著書には1980年の「光州事件」を題材にした『少年が来る』があり、光州を舞台とした当時の被害や痛みを世に伝えている。
韓国の民主化の足跡を訪ねる 全日ビル245
韓国の民主化運動が起こった1980年「光州事件」の場所として知られている光州広域市。実際に足を運ぶと、そこには当時のできごとを物語る建物が残っている。中でも代表的な全日(チョニル)ビル245。
全日ビル245の銃撃の跡 住所: 全日ビル245 光州広域市 東区 錦南路1街 1-1 (筆者撮影)
全日とはこの地域の地方紙、全南日報(チョンナムイルポ)の略であり、当時このエリアで一番高いビルであったこの新聞社の社屋が戒厳軍のターゲットとなり、245個の弾痕が痛々しく残っている。
全日ビル245の銃弾の跡 (筆者撮影)
当時の一般家庭を展示したコーナー。カレンダーは5.18民主化運動のころのまま時が止まっている (筆者撮影)
光州事件を説明する映像とヘリコプターの模型 (筆者撮影)
館内にはヘリコプターからの銃撃の様子を体験できるARなど様々な展示・体験空間が設けられている。ギャラリーの韓国語や英語での説明が理解できなくとも、当時の映像や音が再現されており、よりリアルに学ぶことができる。同館のスタッフは「民主化という当たり前の言葉は、簡単に生まれるものではない」と力強く当時の様子を語っていた。
韓国茶文化の聖地、大興寺へ
大興寺のお坊さんと看板犬 住所:全羅南道 海南郡 サムサン 面 テフンサギル 400 (筆者撮影)
韓国の歴史を感じる光州から南へ下って全羅南道の海南(ヘナム)郡へ。まず訪れたいのは百済(くだら)時代から千以上年の歴史を持つユネスコ世界遺産の大興寺(テフンサ)。韓国の茶文化の聖地とも呼ばれている。
大興寺を取り囲む山(筆者撮影)
544年に阿道和尚により創建されたと伝えられている大興寺は周りが山で囲まれており、蓮(はす)の花の中心部のような場所に位置することから外敵の侵入や火災などの災いが及ぶことができない所として伝えられた。周りに高い建物がなく、空がとても広く感じる。都会の喧騒(けんそう)から離れ、心まで解放される。まずお寺の中に入る前に、お茶を頂いた。
大興寺の境内で収穫した茶葉を使ったお茶(筆者撮影)
出てきたのは日本のような抹茶とは異なり、敷地内で採れた葉を使った緑茶。温めた急須でお茶を注いでいく。
僧侶がお茶の文化や精神について説明してくれる(筆者撮影)
日本のように茶碗を回したり、懐紙で清めたりするなどのあらたまった作法はなく、非常にリラックスした空間が広がる。ここではしきたりにはこだわらず、境内の中に入る儀式のようなものとして捉えていると教えてくれた。「お茶を飲むときは自分がまるで仏になるようなもの」として、お茶は禅をすることと同じようだ。こうした禅と茶の世界は1つに通じるという「茶禅一味精神」を伝えたのは、韓国の茶にまつわる多くの本を残した草衣禅師(チョイソンサ、1786-1866)。この大興寺で書いた、韓国茶の古典と呼ばれる名著「東茶頌(ドンダソン)」を頂いた。
草衣禅師が書いた、韓国の茶に関する名著「東茶頌」(筆者撮影)
通訳ガイドは内容の一部をこう訳した。
「お茶をすると体に風が注ぐ
肉体が軽くなって世界を囲む自然のような気持ちになる
風によって揺れる竹や松の音が1つになって聞こえる
私の寂しい気持ちを慰めてくれる」
この一節を通し、日本の隣の国、韓国でも、お茶を通して同じような精神性を感じたひと時だった。お茶に癒やされたあとは「チャクチャギ」と名付けられたお寺の看板犬と、韓国のお茶の作り方を学びに境内へ。
大興寺の看板犬チャクチャギ(筆者撮影)
チャクチャギとは韓国語で「ちぐはぐ」の意味で、足の色が違うことから名付けられた。広い大興寺の境内をガイドするかのように、我々を先導してくれる。今回頂いたお茶は、お寺の敷地内で収穫されたフレッシュな茶葉。
大興寺の敷地内にある茶畑。近くには小川が流れている(筆者撮影)
春にここへ訪れると、茶畑で収穫した茶葉からお茶を作る体験ができるそう。続いてこの大きな鉄釜を熱して茶葉を煎る。
茶葉を煎る大きな鉄の釜 (筆者撮影)
そして今度は洗濯をするようにもむことで、茶葉をコーティングしている表皮をむいていく。
茶葉をもむ工程を再現している (筆者撮影)
こうした過程を経てからお湯を入れると茶葉がフワフワに。外で茶葉を乾燥させたら、また煎って、もんで、を 何度も繰り返してお茶ができる。この工程を全てここ大興寺の僧侶たちがやっているのだとか。