ダイエット漫画の衝撃作『脂肪と言う名の服を着て』が問いかける、本当の「美」と「幸せ」

『ハッピー・マニア』『働きマン』などで知られる安野モヨコ。今年7月に、著作である『脂肪と言う名の服を着て』の1ページが、作品の訴えるメッセージとは正反対の意味合いで広がっていると、自身のX(旧:Twitter)でコメントを出す事態になった。

『ハッピー・マニア』『働きマン』などで知られる安野モヨコ。今年7月に、著作である『脂肪と言う名の服を着て』の1ページが、作品の訴えるメッセージとは正反対の意味合いで広がっていると、自身のX(旧:Twitter)でコメントを出す事態になった。
コメントの通り、この物語は「やせ」信仰を助長するものではない。むしろ、一人の主人公の姿を通し、本当の意味での“美しくて楽しくて満ちたりた日々”とは何かを問いかける物語だから、当時、多くの女性に大きな衝撃を与えたのだ。

『脂肪と言う名の服を着て』の主人公は、子どもの頃からからふくよかな体形で、自己主張が苦手な花沢のこ。会社では華やかで強気な性格の橘マユミら同僚にいじめられ、何も悪いことをしていなくても男性社員からは嫌悪の感情をぶつけられていた。

彼女のよりどころは高校時代から8年付き合っている彼氏の斉藤だ。他人からどんな扱いをされようと、斉藤からは愛されている。そのはずが、マユミに斉藤を寝取られてしまい、唯一の心の柱がぐらついたことから、過食が加速していく。
苦しみや悲しみを食べることで忘れようとしても、一時的に麻痺(まひ)するだけ。期せずして手に入れた大金と、同僚のミスの責任をなすりつけられたのをきっかけに、高額のエステを契約しダイエットを試みる。ストレスでドカ食いしては後悔し、ついにのこは「1回だけなら」と自ら嘔吐(おうと)する……。

「食べなきゃ」「やせなきゃ」「強くならなきゃ」。のこは常に何かに追い立てられ、やせた先にある幻の幸福に依存している。同時に注目したいのが、のこを執拗に追い詰めるマユミだ。

のこの考え方でいうなら、マユミはやせていて“美しくて楽しくて満ちたりた日々”を送っているはず。そんな風に全く見えないどころか、自分が見下している女が不幸そうにしていないと、激しい苛(いら)立ちを見せている。
のことマユミの2人は、どちらも評価軸が他人の感情にあるのだ。
のこを担当したエステティシャンは、のこについて「心がデブ」だと言う。これはその通りで、のこの心に問題があるのは明らかだ。

だが、この漫画は1997年に描かれたもの。2024年の今は、のこに対してもう少し違う考え方もできるはず。まだまだ進歩の余地はあるにしても、摂食障害への理解はこの頃より進み、「やせ」信仰は根強く残っているものの、容姿へのジャッジに否定的な世の中になり、美への解釈も多様に広がっている。
自分の容姿に悩んだ時に、何が幸せへと導く方法なのか? 本当の美しさとはなにか? 時代が変わろうとも、のこはその生きざまを通して何度でも私たちへと問いかけてくるのだ。
text: Ayaka Kawamata
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