「地獄」のような苦しみをアートに昇華した、ルイーズ・ブルジョワの全貌に迫る個展へ
ルイーズ・ブルジョワ《ママン》 ブロンズ、ステンレス、大理石 1999/2002年 所蔵: 森ビル株式会社(東京)
六本木ヒルズを訪れると、巨大な蜘蛛の彫刻が出迎える。あの蜘蛛のアーティスト、ルイーズ・ブルジョワの展覧会が森美術館で開催中だ。日本では27年ぶりとなる国内最大規模の個展で、創作の全貌を追う。
ルイーズ・ブルジョワ《ママン》 ブロンズ、ステンレス、大理石 1999/2002年 所蔵: 森ビル株式会社(東京)
六本木ヒルズを訪れると、巨大な蜘蛛の彫刻が出迎える。あの蜘蛛のアーティスト、ルイーズ・ブルジョワの展覧会が森美術館で開催中だ。日本では27年ぶりとなる国内最大規模の個展で、創作の全貌を追う。
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パリに生まれ、ニューヨークに渡ったルイーズ・ブルジョワ(1911-2010年)。70年にわたるキャリアの中で、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画など、さまざまな作品を残している。98歳で亡くなるまで旺盛に創作を続け、晩年に代表作となる作品を多く発表した。日本での個展開催は1997年以来。今回出品される作品の約半数が、1998年以降に制作された日本初公開の作品だ。

ブルジョワの創造の源は家族との関係にあり、少女時代の心の傷が創作に大きな影響を与えている。タペストリー専門の商業画廊と修復アトリエを経営する両親のもとに生まれ、幼少期から支配的な父親に苦しんだ。女に生まれたことを疎まれて育ち、さらに父親と家庭教師の愛人関係を目の当たりにする。病気の母親を長年介護したが、20歳の時、母親が他界。幼い頃からタペストリーを修復する母を手伝い、スケッチや創作が身近なものになっていたブルジョワは、喪失感の中でアーティストを志すようになる。ソルボンヌ大学で数学を学んだ後、エコール・デ・ボザールなどの美術学校に通い、アートの道へ。フェルナン・レジェに師事する。そして、アメリカ人美術史家との結婚を機にニューヨークに移住。1940年代半ばから作品を発表し始めた。

本展は、家族との関係を軸に作品を辿る。第1章「私を見捨てないで」で母との関係、第2章「地獄から帰ってきたところ」で父との確執、第3章「青空の修復」では、家族との関係性の修復と心の解放が主なテーマだ。作品を辿りながら、内なる葛藤と衝動のありよう、そしてそれをアートとしていかに昇華していったか、道のりを追うことができるだろう。

近年、ニューヨークに移住してから約10年の間に制作された初期の絵画作品が世界的な注目を集めており、本展でもまとめて展示される。絵画には、自画像、家、フランスに残してきた家族など、以後何十年も繰り返されるモチーフが登場する。特筆すべきは、「ファム・メゾン(女・家)」シリーズだ。女性を守ると同時に縛りもする家屋によって、上半身が覆い隠された女性像を描く。1960年代のフェミニズム運動で高く支持された、キャリアを象徴する作品群だ。
六本木ヒルズにそびえる蜘蛛の彫刻は《ママン》と名付けられている。長い創作活動の中で、蜘蛛は特別なモチーフだ。彼女の母親でもあり、自画像でもある。糸で傷を繕う修復家である蜘蛛は、タペストリーを修復していた温和な母親の象徴。一方、蜘蛛は周囲を威嚇する捕食者でもあり、母性の複雑さを表現してもいる。さらにブルジョワは、蜘蛛が体内から糸を出すように、自身の体から負の感情を解放するために作品を作っていると語った。自身を、逆境を生き抜いた 「サバイバー」だと捉えたブルジョワ。苦しみを表現で克服する強い意志は、時を超えて観る者を揺さぶるだろう。

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ言っとくけど、素晴らしかったわ
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1
六本木ヒルズ森タワー53階
会期:2025年1月19日(日)まで
開館時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで/入館は閉館時間の30分前まで)
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
料金:[平日]一般2,000円/[土・日・休日]一般2,200円ほか(専用オンラインサイトで購入の場合、平日1,800円、土・日・休日2,000円)
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©︎marie claire/text: Saya Tsukahara
ルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)
1911年、パリ生まれ。1938年にニューヨークへ移住。1982年に女性彫刻家としては初となるニューヨーク近代美術館での大規模個展が開催された。1993年、ベネチア・ビエンナーレのアメリカ館の代表に。2010年に他界した後も世界の主要美術館で個展が開催されている。
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