俳優 河合優実が見た「ナミビアの砂漠」と「カンヌの景色」

カンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した山中瑶子監督の「ナミビアの砂漠」が、9月6日に公開を迎える。主演を務めたのは、TBSドラマ「不適切にもほどがある!」(ふてほど)や映画「あんのこと」、劇場アニメ『ルックバック』の声優など、近年出演が絶えない人気俳優の河合優実だ。主演のカナを演じる河合に「ナミビアの砂漠」について、初のカンヌ凱旋(がいせん)について聞いた。

カンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した山中瑶子監督の「ナミビアの砂漠」が、9月6日に公開を迎える。主演を務めたのは、TBSドラマ「不適切にもほどがある!」(ふてほど)や映画「あんのこと」、劇場アニメ『ルックバック』の声優など、近年出演が絶えない人気俳優の河合優実だ。主演のカナを演じる河合に「ナミビアの砂漠」について、初のカンヌ凱旋(がいせん)について聞いた。
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2000年、東京で生まれた河合。2021年出演『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価され、さまざまな映画賞で新人賞を受賞。以降は注目作に次々と出演し、新進気鋭俳優の一人に仲間入り。2024年に出演した「ふてほど」では、阿部サダヲ演じる市郎の娘、純子役で一躍脚光を浴び、彼女の名前が広く知られるようになった。

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの彼女がどうしても、ともに作品を作りたかったのが山中瑶子監督だ。「山中さんが映画を作るらしいという情報を耳にして『どんな役であっても出演したい』と、マネージャー経由でこちらからアプローチしました」と、直談判。山中監督側も「河合さんでやってみたいと思っていた」と出演がとんとん拍子で決定した。当初は、原作のある作品を映画化する予定だったが、企画の変更など、変遷を辿(たど)ってオリジナルの脚本による『ナミビアの砂漠』の制作がスタートしたのだという。
「企画・脚本が変更されたことは、監督の中で色々な理由であったんだと思います。出演のお話を監督と会う前に受け、最初にお会いしたのは昨年の6月頃。『これから脚本を書いていきます』という状況でした。まっさらな状態から2か月くらい、監督は私も含め色々な人に話を聞いて雑談のような中から材料集めをして、最終的に1か月ほどで脚本を仕上げたと聞きました。9月に撮影をして、年末には映画が仕上がっていました」
本作で河合が演じるカナは、世の中も人生も全部つまらないと、やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている21歳。少しいじわるで、嘘もつくし、暴力的な彼女が、仕事や付き合う男性を通して、自分というものや居場所を求め模索する様が描かれる。

「最初に脚本を読んだ時、カナは不安定で人にそうした思いをぶつけたりもするんですけど、闇の中に静かに落ちていくというよりは、飛んだり跳ねたり自分の思ったままに動のエネルギーをもって進んでいくイメージ。本作自体も、大変なことが起きてはいるけれどどこか軽やかさがある映画だなという印象でした」
河合の言うようにカナは自分の思いのままに、物語の序盤で生真面目で優しい恋人 ホンダ(寛一郎)にもの足りなさを感じ、真逆の自信家で刺激的なハヤシ(金子大地)の元へと乗り換えていく。そんな林との恋愛の中で、取っ組み合いのけんかを繰り広げるシーンは、若さゆえの激しさもありながら、どこか痛々しくもあり清々(すがすが)しくもあり、滑稽にも見える。


「アクション部さんが入ってけんかをつくっていったんですが、監督からも“面白い”ものにしたいと言う言葉があって。いかに本気の暴力に見せるかというよりは、取っ組み合いのけんかで見てる人が笑っちゃうような表現を目指すのは難しかったですね。私は恋愛関係や友達関係で激しくぶつかり合うようなことはしてこなかったですが、兄弟間でそういったけんかをした経験はあるので、その時のことを思い出したりして」
物語が進んでいくにつれて、カナは自分の唐突な行動や、コントロールし切れない感情に次第に追い詰められていく。そんな今にもがく姿は、カンヌ映画祭を訪れた多くの観客をも魅了したようだ。
「上映が終わった後、観た人が『面白かった』と感想を伝えに来てくれて。『ラストシーンてこういう意味だよね?』とか突っ込んだ質問もくれたりして、嬉(うれ)しかったですね。なかでも忘れられないのは、役者を志してる10代後半くらいの女の子2人組が、『すっごい良かったし、あなたみたいに演技がしたい』と何度も感動したという言葉とともに伝えてくれて。一生懸命に伝えてくれる姿と、その素直さに尊敬するような気持ちになりました」

河合にとって初の海外映画祭への参加。今年はMEGUMIが主催する「JAPAN NIGHT」が開かれたり、奥山大史が「ぼくのお日さま」で、ある視点部門に選出されるなど、多くの日本人に注目が集まった。
「世界的にも、今年のカンヌは新しい波の年だねと言われていたみたいです。今回そういったものを肌で感じられたのは良かったですし、出演作を観てもらう機会を経て全く卑下する必要はないし、堂々と世界の舞台で勝負できるような作品を当たり前にこれからも作っていたいなと強く思いました。海外映画祭のために映画を作るのではなく、日本の映画作りのレベルが上がって、対等に世界中の人と作品をもって交流できる未来を目指したいなと感じました」
カンヌでも多かったのが、「なぜ『ナミビアの砂漠』というタイトルなの?」という質問だとか。いくつか解釈があるというこの回答。監督曰(いわ)く、その一つは「ナミビア」には「何もない」という意味があり、その意味を踏襲して今作の“愛の不毛”を当てはめているということが一つであるとインタビューで語っている。河合はどう答えたのだろうか?
「自分にないものや、かけ離れた人に憧れを抱いてしまうように、場所や土地にもそうした感情があると思うんですが、カナは狭く混沌(こんとん)とした東京という街で、恋人とごちゃごちゃ生活して苦しんでいて。そういうことから解放されたいという潜在的な思いから、何があっても動じることのない、広大で静かな砂漠に憧れを抱いているのかなと想像していました。対比ということではなく、単純にカナの生活と一番遠く、異なる土地に気持ちがあるという捉え方です」
演技をする上で大事にしていることを聞くと、「人間を演じるということの重さに自覚的でありたい」と答えた河合。今作でカナを演じ、カンヌでも広く作品を観てもらう機会を経て、日本での封切りを前に今何を思うのか?

「監督とはカナについてメッセージでよくやりとりをしていたんですが、『映画が終わった先でカナは成長するのかもしれないけれど、映画の中ではしなくてもいいと思います』とおっしゃっていて。大体の映画やドラマでは、主人公が成長するようにできているので、そうではない人を演じるのは多少怖く、勇気がいるなって思ったんです。結局、物語の最初と最後でカナが何を得たのかということが、一見してわかりづらい作品だとは思うので。
でも演じていくうちに、それ自体がこの作品のオリジナリティだし、すごくリアルだなって。だって人間って、普通に生きていてそんなに簡単に成長しないから。この作品が『このままでいいのかな』という人にも、『このままじゃいけないのはわかってる。でもどうすればいいかわからない』という人にも、『今はこのまま生きていいんだよ』という粗野でキラキラした肯定感を感じられるものであればと思っています。カナの現在地、今ここにある生活の中に、わずかでも希望を見つけてもらえれば嬉(うれ)しいです」
photo: Genya
hair&make: Takae Kawakami(mod’shair)
stylist: Noriko Sugimoto
interview&text: Mio Koumura
・ユアン・マクレガーと実娘クララがW主演! 映画『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』クララと監督にインタビュー
・自分を“解放”する演技で魅了。長澤まさみが舞台にかける情熱
『ナミビアの砂漠』
9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
脚本・監督:山中瑶子
製作:「ナミビアの砂漠」製作委員会
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
公式サイト
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