一度観たら忘れられない。ホラー映画より恐ろしい映画『関心領域』を映画館で観るべき理由
©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞し、5月24日(金)に公開され満席回が続出している今話題の映画『関心領域』。アウシュビッツ強制収容所の隣に暮らす家族を通して“無関心”という罪の恐ろしさを描く作品だ。
人類が二度と忘れぬように『戦場のピアニスト』『シンドラーのリスト』『ライフ・イズ・ビューティフル』など、これまで数多くのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を題材とした映画がさまざまなアプローチや視点で創られてきた。しかし、『関心領域』はこれまでのホロコースト映画のどれとも違う手法でその歴史の事実を描き出す。本作はホロコーストの残酷な暴力をすべて<音>で表現しているのだ。アカデミー賞で音響賞を受賞した真髄はここにある。この映画は観る、のではなく聴く映画なのかもしれない。
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スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな家族の幸せな日常。広々としたプール付きの庭ではしゃぐ子供たちの声、豊かな食材を囲んだ幸せな食卓、今後の夢を語り合う寝室で愛し合う夫婦……。しかし、彼らの優雅で幸せな家庭の壁ひとつ隔てた隣には、アウシュヴィッツ強制収容所があり、日夜ユダヤ人の虐殺が行われているのだった。アウシュビッツ収容所の様子は全く映し出されることはない。しかし、耳をすませると微かに聞こえる声や音、建物からあがる煙、登場人物が交わす何げない会話や視線で観客は察することになる。見逃し、聴き逃してしまいそうになるほど微細な描写と音響による体験は、映画館でしか味わえない恐怖である。決して家での鑑賞では感じられない領域なので、少しでも関心がある方にはぜひとも映画館に足を運んでいただきたい。
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ジョナサン・グレイザー監督がマーティン・エイミスの小説を原案に2年のリサーチを経て製作した作品というだけに、そこに映し出されるのはあまりにもリアルな人間の生活だ。リサーチで得た事実を伝えることに注力するため、実際に撮影は強制収容所から25キロ以内、家中に無人カメラを設置、ピアノや衣装などは当時のモノを使用するなど徹底している。スクリーンに映し出されるのは、時空を超えた1945年のアウシュビッツ収容所所長ルドルフ・ヘス一家そのものなのだ。
「加害者を描いた映画は過去にもあったが、どの作品でも悪人として扱われている。大量虐殺を行う彼らを化け物と責めるのは簡単だ。でも主人公の2人も、最初は夢を語り合う恋人同士だった。彼らが望むものは、私たちと変わらない」と語る監督。この言葉通り、今も戦争が行われ、ジェノサイドが繰り返されている現状への関心は君たちにはあるだろうか? とスクリーンを超えて私たちに問いかけてくる。当時は普通だと思っていた人々が、歴史が明らかになると罪を問われる。しかし、今を生きる私たちは彼らを責められる立場にあるのか?彼らと違うと断言できるのだろうか……? 現在進行形で見たくないものから目を背けているのではないか?そんな想いを映画館から去った今も考え続けている。幸せになりたいと願う普通(だと思っていた)の人間たちの営みが、歴史に永遠に刻まれるほどの大量殺戮(さつりく)になるとは、ヘス一家も想像もしていなかっただろう。
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何も知らずに映画館に行き、一度鑑賞してからもう少し関心を広げて知識を増やしてから二度目を鑑賞すると、見える世界がグッと変わるはずだ。冒頭のヘス夫人が羽織る毛皮のコート、歯磨き粉から見つかるダイヤ、子供たちがおもちゃで遊ぶ戦争ごっこ、弟を温室に閉じ込める兄、川に流れてくる灰の正体、突然いなくなるヘス夫人の母親など……意味が分かるとゾッとする描写は数えきれない。観る側の関心度や理解度によって強烈なメッセージの受け取り方が変わっていく、生涯忘れがたい体験をもたらす一本になるだろう。
text: DIZ
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