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テキスタイルデザイナー 須藤玲子 人を結んで織りなすNUNOとは

須藤玲子が率いるテキスタイルデザインスタジオ「NUNO」は日本国内の産地と連携して、次々に独創的なテキスタイルを生み出してきた。ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館など、世界の名だたる美術館などに収蔵されている。様々な表情を持つ布の数々は美しく、思わず触れたくなる。そして私たちが毎日身にまとう「布」の意味について考えさせられる。新型コロナウイルス感染症の拡大で、店を閉じることも考えたという須藤を突き動かすものは何なのか。

コロナ禍で窮地に

須藤玲子 布 
「NUNO」の店内に飾られているこいのぼり

インタビューの場所は、東京・六本木のアクシスビル地下1階にある店「NUNO」。布のロールや服、クッションなどのほか、「こどもの日」を前に色とりどりのこいのぼりが飾ってあった。

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出た。「今ここで、店をいったん閉じるタイミングなのかな」。須藤はそう思ったという。

コロナ禍で人との接触や移動が制限され、店を閉めざるを得なかった。それだけではない。テキスタイルの制作もままならなくなった。友人に相談したところ、「それもいいかもしれない。でもまずはメンバーに話すべきでしょう」と言われた。共に働く「NUNO」のスタッフに集まってもらい、「店を閉めようと思う」と話したところ、「やれるところまでやってみましょう」と言ってくれた。

2019年12月から2020年2月にかけて香港のテキスタイルミュージアムCHAT(Centre for Heritage,Arts and Textile)で開催した展覧会が無事終了し、ロンドンのジャパンハウスに巡回することが決まっていたものの、ロックダウンですべてが凍結状態になってしまった。だが、香港の展覧会を企画したCHAT館長兼チーフキュレーターの高橋瑞木とジャパンハウス・ロンドン企画局長のサイモン・ライトが「こんな時こそ、アートの果たす役割は大きいのではないか」と意見が一致。実現できるのか不透明な状況でも、ロンドンに作品を送り、展示室の下絵を描いて送った。

展覧会の実現に向けて、毎日、ロンドンとオンラインでミーティングを重ねた。時差が8時間のロンドンと時差が1時間の香港をつなぎ、日本時間午後6時から、綿密な打ち合わせを行ったという。当時のイギリスはコロナ禍で美術館等も限られた時間しか活動が許されない中、準備を進めていった。

コロナ禍で得た、新たなエネルギー

『「NUNO」の展覧会を計画したいと思っている』。こんな話がアメリカ西海岸最大級の美術館、ロサンゼルスカウンティ美術館(通称ラクマ)のシャロン・タケダ染織部長からあったのもこのころだ。だが、物理的には会えない。

毎週火曜の日本時間午前7時からオンラインで2時間、長いときには3時間、「NUNO」のテキスタイルについて1点ずつ、技法やエピソードなどを交えながら解説していった。

打ち合わせをしながらも、コロナ禍でこの先、店を存続できるのか。展覧会はできるのか。不安がぬぐえなかった。そんな時、ラクマの人たちが「NUNOがつぶれたら、展覧会ができなくなるから困る」と、次々に友人たちにも声をかけて、みんながオンラインを通してNUNOの製品を買ってくれた。誰もいない店内で、スタッフの高重織衣がスマホで服を映し、みんなが見たいという服を須藤がモデルとなって試着し、その姿を映して見せる。

「パンデミックで先がどうなるかわからなかったけど、コロナだからといって止まることはなかった。多くの人に支えられ、それぞれの思いやエネルギーがさく裂して、結果的に新たな活力となり、次へのステップへとつながっていった」

須藤玲子 布 NUNO

テキスタイルデザインへの道

須藤は短大を卒業後、図面を自分で描き、糸を紡ぎ、手織りの布を作っていた。そんな人生が大きく変わったのは、1983年。革新的なテキスタイルを次々に生み出していた新井淳一の展覧会だった。新井との出会いから、その活動に参加し、84年、六本木に「NUNO」をオープン。テキスタイルデザインの道へと進んだ。

これまで数多くの布を生み出してきた。多彩な色、様々な質感。「きびそ」と呼ばれ、本来捨てられてしまうような繭のかたい表皮から糸を作って製品化するなど、生産の過程、糸の使い方などに新たな視点を加えることで、今までにない美しい布を作ってきた。

須藤玲子 布
店内に並ぶ布の数々

その評価は国際的に高く、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館など、世界の名だたる美術館に収蔵されているほか、マンダリンオリエンタル東京の入り口を飾るタペストリーから、客室の家具や壁などまでデザインするなど、ラグジュアリーブランドの店などにも数多く使われている。

展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」

これまでの活動の集大成ともいえる展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで5月6日まで開催されている。2019年に香港のCHATで企画、開催された展覧会の巡回展だ。

須藤玲子 布 水戸芸術館 展覧会
ニードルパンチの技法を見せる
須藤玲子 水戸芸術館 展覧会
全国26の織物や染め物の産地の444種類の布をつなぎ合わせた展示

創造性と実用性に富んだテキスタイルを40年にわたる須藤と「NUNO」の布づくりを紹介するもの。完成品だけでなく、これまで見せてこなかった制作過程の舞台裏も見せる演出となっている。

須藤玲子 水戸芸術館 展覧会
  「続・こいのぼりなう!」

色とりどりのテキスタイルを使ったインスタレーション「こいのぼりなう!」は、フランスの展示デザイナー、アドリアン・ガルデールが考案。これまでアメリカ・ワシントンD.C.のジョン・F・ケネディー舞台芸術センター(2008年)、フランス・パリのギメ東洋美術館(2014年)、東京の国立新美術館(2018年)などで展示されてきた。

展覧会を見ると、須藤とそのチームの創り出してきた布がいかに伝統の染織技術と革新が共存したものかがわかると同時に、多くの産地や工場、職人らを結んでいるかが伝わってくる。布が触れるコーナーもあり、その感触が人の感性を刺激する。

須藤玲子 布 NUNO

「NUNO」の店で須藤のインタビュー中、ひっきりなしに人が入ってきた。35年前から東京に来ると必ず「NUNO」の店を訪れるというアジア系の男性。服を買いにきた店の常連の女性、「NUNO」の展覧会を計画しているというアメリカ人女性。そして、須藤とともに新しい布をつくっているという機屋。この場所は布を作る人と使う人の出会いの場でもあるのだ。
「まだまだ作ってみたい布がある。ほんとに布が好きだから」。須藤の挑戦は続く。

text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
photo: Tomoko Hagimoto

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関連情報
  • 展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」(2024年5月6日まで)
    会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場
    開場時間: 10:00~18:00 (入場は17:30まで)
    入場料:一般 900円、団体(20名以上) 700円、高校生以下/ 70歳以上、障害者手帳などをお持ちの方と付き添いの方1名は無料
    ※学生証、年齢のわかる身分証明書が必要

Profile

須藤玲子

株式会社「布」代表取締役デザインディレクター 1953年、茨城県石岡市生まれ。武蔵野美術短大工芸デザイン学部専攻科卒業。83年、テキスタイルメーカー「布」の設立に参加。84年、東京・六本木のアクシスビルに「NUNO」をオープン。東京造形大名誉教授。

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