×

環境問題から広がるさまざまな課題解決。地球に優しい未来のために今注目すべきこととは?

サステナビリティーへの関心がますます広がる中、 今私たちはどんなことに目を向けるべきか? ジャーナリストの声やさまざまなブランド、 企業の取り組みからそのヒントを探ってみたい。

「サステナビリティーやSDGsという言葉は、社会に広く浸透してきているとは思いますが、まだ実践レベルでの定着には依然として課題があると感じます」と話すのは、向千鶴氏。ファッション業界メディア『WWDJAPAN』の編集長を経て、2021年から編集統括サステナビリティー・ディレクターに就任。独立した後も、その重要な役割を継続して担っている。

「私自身、気をつけているのは“サステナビリティー”という大きな主語はなるべく使わないようにすること。言葉の意味が広すぎて観念的になると人の心に届かず、具体的な解決に向かうことを難しくしてしまうからです。皆さんが漠然としたイメージを持っている今の段階で“サステナビリティー”を語るときは、できるだけ作り手の実感を込め、他の言葉に置き換え、語り手が何を大切にしているかを軸に、話を展開していくことが得策だと考えています」

ファッション業界で働く人、エシカルコーヒーの普及に取り組んでいる人……分野は異なっても、作り手たちに共通するのは「持続可能なビジネスの継続」という信念。一方で、その思いを未来へと続けるためのアクションは、それぞれの業界や立場によって異なる。サステナビリティーには環境、人権、ガバナンスという大きな三つの柱があると向氏。

「これまでは環境問題が先行していましたが、去年あたりから、より人権がフォーカスされるようになりました。環境と、そこで働く人々の人権がようやく結びついてきたわけです。ファッション業界でも人権に目を向けるブランドが増えてきました。今はコットンの服を作るために、その生産地の“種”まで追いかけるように。そして、その種を植えている人たちに触れることで、彼らの健康や暮らしにも配慮する意識が生まれています。綿畑まで出向くデザイナーも少なくなく、現地で働く人たちと出会い、現場を知ることで、さまざまな認識が広がってきているのです。綿畑や羊を育てる牧場など生産の現場に辿り着くことで、ファッションは農業と深くつながっていることに気づかされます」

科学の力で素材の置き換えを

さらに向氏が今、関心を寄せているのは、今まで使っていた原料を再利用したり、未利用資源を活用した新たな素材に置き換えたりすることで、脱炭素を図る「アップサイクル」に取り組む企業やブランド。「ファッション産業のCO₂排出量の約8割が生産段階で生じるとされているので、なるべく初めて使う素材ではなく、リサイクル素材に置き換える動きが広まっています。その中でも今注目しているのは、科学の力で素材の置き換えをするという取り組み。先日、グローバル・ラグジュアリー・グループの『ケリング』が主催し、サステナビリティーに関する課題に取り組む日本のスタートアップ企業を表彰する第1回『ケリング・ジェネレーション・アワード・ジャパン』授賞式が行われ、『ファーメンステーション』という企業が最優秀賞に選ばれました。この企業は、ビューティー、ライフスタイルの分野ですが、発酵の技術を使った原料の開発を行っています。これまで廃棄されていた果物の搾汁かすなどの未利用資源を料にして、化粧品などの製品も誕生させています。CO₂を減らすためには、こういった科学の力がとても有効。科学は一から新しい可能性を生み出すことができると思っています」

ファーメンステーション
「世の中にあふれるゴミがもっと活用できたら面白いのに」「事業性と社会性を両立させたビジネスを創りたい」という想いから誕生した企業「ファーメンステーション」。独自の発酵技術を活用することで、食品廃棄物のような未利用資源から天然由来の芳香エッセンスなどのバイオ原料を生産。資源の有効活用と循環型社会の実現に取り組んでいる
ファーメンステーション
代替原材料やリサイクル技術などの課題に取り組み、社会や地球環境に前向きな影響をもたらすスタートアップ企業に与えられる賞「ケリング・ジェネレーション・アワード・ジャパン」で今年、最優秀賞を受賞した
ファーメンステーション

リサイクルアイテムを新たな価値として循環

また、ファッション業界では、リサイクルの取り組みを行うブランドも増えていると話す。これまでは、売り場に届いた服を売るだけで完結していたビジネスの、その先を模索し始めている。

「ファッションブランドが自社の製品を売った後に、それを回収して、再販する。要するに古着ですね。それをこれまでのように古着屋さんが扱うのではなく、自社のブランドの中で再販する仕組みが広がってきています。新作を販売するより、売値が下がりますが生産コストも下げられる。さらに一度、ブランド側が回収して、手を掛けて生まれ変わらせたアイテムは、ファンにとって新たな価値を生みます」

例えば、フランスのシューズブランド「J.M. WESTON(ジェイエムウエストン)」。不要になった靴の下取りをし、工房で修理・修復を施し、再生する取り組みをスタートしている。職人たちの手によって美しく生まれ変わった靴たちは、以前の持ち主が大切に履き込んだ風合いが加わり、足にも馴染む一足になっている。

ジェイムスウエストン
1891年に創業したフランスのラグジュアリーシューズブランド「ジェイエムウエストン」が2019年から始めたプロジェクトが「ウエストン・ヴィンテージ」。役目を終えた自社の靴を回収、フランス・リモージュの工房で修理・修復を施して再生させる
ジェイムスウエストン
「今の職人たちが古い靴を通して過去の技術に触れることで見識が広がるというメリットもあるそうです」と向氏。年に一度開催される「ウエストン・ヴィンテージ」も扱う、伊勢丹新宿店メンズ館でのポップアップストアは毎年、大盛況となっている

「新品と見紛うほどきれいになった憧れのブランド品が安く手に入ることで今後、エントリーモデルとしての需要も増えそうです。リセールを積極的に行うことで、若者の客層を惹きつけることも考えられます」

着なくなった自社ブランドの衣類を回収してリセールし、売上の半額を寄付しているのは「agnès b.(アニエスべー)」。さらに彼らは、リペア相談カウンターを設けてアイテムの修理にも取り組んでいる。歴史があり、タイムレスなもの作りに長けたブランドこそ、世界中に眠っている製品があるはず。それを再び世に送り出し、新たな価値として循環させる。ファッション業界が、このような選択肢を提示することは、これからの時代に求められる新たなスタンダードなのかもしれない。

アニエスベー
良質な素材と丁寧な縫製で長く愛用でき、時代に流されないデザインを重視するフランスのブランド「アニエスべー」
アニエスベー
自社の服を回収し、「アニエスべー」の東京・青山店や渋谷店、京都・祇園店の店内に併設するヴィンテージショップで展開。その売上の50%を一般社団法人タラ オセアン ジャパンに寄付している。さらに青山店には「リペア相談カウンター」も設置。破れ補修やファスナーの交換など、服の修理も受け付けている
お問い合わせ先

アニエスベー tel: 0120-744800
キークス web: kiiks.online
ジェイエムウエストン 青山店 tel: 03-6805-1691
ファーメンステーション web: fermenstation.co.jp
和光 tel: 03-3562-2111

関連情報

Profile

向千鶴 Chizuru Muko

向千鶴


横浜市出身。東京女子大学を卒業後、エドウイン営業職、日本繊維新聞記者を経て、2000年より、INFASパブリケーションズへ。海外コレクションの取材などを中心に活躍し、2015年には、『WWDJAPAN』の編集長に就任。2021年からは『WWDJAPAN』編集統括サステナビリティー・ディレクターも兼務。2024年に独立し、CRANE&LOTUSを設立。同紙のサステナビリティー・ディレクターの仕事は継続しつつも、活動の場を広げている。

リンクを
コピーしました