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<行定勲のシネマノート>第24回 『COLD WAR』あの歌、2つの心

『COLD WAR あの歌、2つの心』6月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

【6月27日 marie claire style】ここ数年、モノクロ映画の秀作が増えているように思う。アカデミー賞で話題になった『ROMA』もモノクロで撮られた傑作だった。モノクロのよさは情報量が少ない分、俳優の表情に集中できることと映画ならではの世界観に観客を取り込めるところだ。

本作『COLD WAR あの歌、2つの心』もモノクロームがとりわけ美しい作品だった。ポーランドの映画監督パヴェウ・パヴリコフスキは前作『イーダ』でもモノクロ、スタンダードサイズで切り取った傑作を世に送り出し、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。その成功を引き継ぎ再び同じフォーマットで挑んだ『COLDWAR』は美しくも狂おしい傑作恋愛映画だった。

 第二次世界大戦後に国立の舞踊団を立ち上げるために才能ある人材発掘の旅をするピアニストのヴィクトルは、ひとりの少女に魅了される。しかし彼女は問題児で、舞踊団の入団をダンス教師のイレーナに反対される。なぜなら彼女は「父親を殺して執行猶予中」だったのだ。「私に興味が? それとも私の才能に?」と少女はヴィクトルを見つめてつぶやく。少女の名はズーラ。その見つめる瞳にヴィクトルは心を奪われていく。

 1949年から15年の間、ヴィクトルとズーラは何度も離れたりくっついたりする。愛を貫くためにヴィクトルが二人で亡命しようと彼女に持ちかけるが待ちぼうけを食らわされたり、突然ズーラがヴィクトルの前に現れ燃えるように抱き合ったり。ヴィクトルは一途にズーラを想うが常に振り回され続ける。やっと一緒になったかと思えばズーラは心を閉ざし、行方不明になる。そうやって何度も離れ離れになるが二人の絆は繫がったままだ。

この映画を観て私は、日本映画の金字塔である成瀬巳喜男監督の『浮雲』を思い出した。戦後に恋に落ちた男女が離れたりくっついたりしながら、恋愛の生々しさが描かれ、男女のどうしようもなさが胸に刺さるところがこの作品を彷彿とさせた。

 曖昧な男と女の愛の彷徨を主題にした映画に魅了されるのはなぜか。背景である時代に翻弄されて生きる登場人物の在り方はそれぞれだが、恋愛の身勝手さは時代や境遇を越えて隔たりはない。恋は盲目というが、どの傑作も主人公たちの眼差しが印象的である。この映画でもヴィクトルがズーラを見るその瞳が印象的だ。しかし、二人の想いはすれ違っていく。この愛の不毛を、説明的な場面を排除して二人の感情の発露だけに焦点をしぼり、抑制された演出とカットによる省略で映画的に描いたストイックな作品。私の記憶の中に残り、たびたび見返すことになるであろう傑作である。

■映画情報
・『COLD WAR あの歌、2つの心』
6月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
・アマンダと僕 公式HP:www.bitters.co.jp/amanda
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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