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愛しい人との美しくも切ない日常を描く映画『楓』が公開。主演・福士蒼汰と行定勲監督が語る舞台裏

大切だからこそ、伝えられない――。天体観測という共通の趣味を持つ須永恵と木下亜子。高校で出会ってから約10年、二人は着実に愛を紡いできた。穏やかで満ち足りた日々が続くと思われたある日、恵は突然の事故で亡くなってしまう。ショックで心を乱した亜子は双子の兄の涼を恋人の恵だと思い込んでしまうように。涼は、亜子を思うあまり、恵のフリをすることに……。

スピッツの名曲「楓」からインスピレーションを得た胸に沁(し)み入るラブストーリーが、12月19日に公開される。双子の兄弟を演じた主演の福士蒼汰(以下、福士)と、メガホンを取った行定勲監督(以下、行定)に本作の見どころを聞いた。

ありふれた毎日に生まれる揺らぎを丹念に描く

―― 本作はお二人にとって、初めての座組みとなりました。お互いにどんな印象を抱いていましたか

福士 この作品の本読みの際に、「恋愛映画は本質を辿(たど)れば人間ドラマである」という行定監督の言葉に共感していました。同じ価値観を持つ方とご一緒できる機会に恵まれたことが、素直にうれしかったです。

行定 福士くんの存在を一言で表すなら、“全幅の信頼”。そんなイメージですね。

―― 一緒にものづくりをしてみて、どんなことを感じましたか

福士 細かいけれど、細かくない……伝わりますかね(笑)。多くのカットを撮る中で、より魅力的に映るための表情や仕草についてのアドバイスをもらいました。でも、基本的には自由にお芝居をさせていただきました。この映画は涼と恵と亜子の“暮らし”を切り取った作品です。同じ通勤ルートや食卓を囲むひとときでも、その瞬間の心情は揺らぎ続ける。その“今この瞬間”に俳優が抱く感情を大切にしてくださっていることがよく分かりました。うまく説明できていない気がするので……。監督、補足をお願いします!

行定 僕は、特別なものを撮ろうとは思っていません。むしろ、誰もがふと目にする光景や表情を丁寧にすくい取りたい。通勤路にいくつか選択肢があったとしても、人はいつもの道を歩く。でも、一瞬たりとも“同じ”はない。季節が変われば目に映る景色は異なるし、デートの余韻に浸って歩くのか、失恋直後に通るのかでも、世界の見え方はまるで違うものになる。そういう心の機微を捉えるのが映画だと思っています。だから、ショットに必要以上のメリハリはつけません。俳優の表情や仕草が自然につながっていけば、作品は立ち上がってくるので。先ほど福士くんのことを“全幅の信頼”と言ったのも、最初に会った時の佇(たたず)まいですぐに分かったからです。

“静”の涼と“動”の恵。双子の個性をどう表現したか

―― 本作で福士さんは、一卵性双生児の涼と恵という難役に挑んでいます。キャラクターを明確にするために監督からはどんなオーダーをしたのでしょうか。

行定 「演じ分けないようにしてほしい」とお願いしました。台本には涼と恵、それぞれの個性がしっかりと書かれていましたから。だから、福士くんならそのニュアンスを自然に受け取り、しゃべり方や仕草に反映してくれるだろうと信じていました。むしろ、余計な説明はいらないと思ったんです。

福士 脚本を読んだ段階で、僕も「差をはっきりつけすぎない方がいい」と感じていました。一卵性双生児でも、ふとした瞬間にまったく別人に見えることってありますよね。だから意識的に演じ分ける必要はないと考えていました。監督からも同じ意図を聞いて、演技プランが間違っていなかったんだと安心しました。

行定 幼少期役の俳優に福士くんの芝居を見せたうえで、演技の方向性を伝えていました。結果的に、涼と恵が全然違って見えた。

福士 同じDNAと顔を持つ双子でも、性格は人それぞれです。生きるなかで積み重ねてきた選択や経験が、その人らしさを形づくるのだと思います。好奇心旺盛で多才な弟のそばで、引っ込み思案な兄は不器用ながらコツコツと撮影技術を磨き、写真家として身を立てます。そんな涼は人と関わるときに一拍距離を置いてしまう優しさも持っている。本来の僕は、どちらかというと涼に近いので、彼の気持ちは手に取るように理解できました。一方で恵の要素も自分の中にちゃんとありました。役者になって、多種多様な背景を持つ方たちと話をするようになり、場を楽しんでもらうために率先して盛り上げてきたこともあります。それが、陽気な恵を演じるうえでとても役に立ちました。

行定 もう二人の人物として、存在していましたよね。

―― ご自身の中にある引き出しを開けられたんですね。

福士 はい。人生のすべてが俳優としての糧になると心得ています。もし、初対面の方と交流する場数を踏んでいなかったら、僕は恵になれなかったかもしれません。彼の溌剌(はつらつ)さをどう表現するか、悩んでいたと思います。それから、声の作り方も工夫をしました。涼として喋る時は落ち着きを出すために喉仏の位置を下げる。一方、涼が恵のフリをするシーンでは、無理やり喉仏を上げて話し、ごまかしているニュアンスを強調しました。

映画『楓』


出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗、大塚寧々、加藤雅也
監督:行定勲
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
公開:12月19日(金)全国公開
配給:東映/アスミック・エース
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会

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