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ヘアメイクから3D造形へ。松野仁美がインスタレーション「散華」に込めた思いとは

ヘア&メイクアップアーティストとしての活動と並行し、3Dプリンターを駆使したヘッドピースやアクセサリーを創造する松野仁美。花や草木などをモチーフにした作品からは神秘的なムードも漂い、見る者を惹(ひ)きつける。この秋、自身にとって初のインスタレーション「散華」を披露。造形作家として、ものづくりにかける思いを聞いた。

“美”への思い込みを取り払う

道端にたたずむ犬、絢爛(けんらん)豪華な山車、ガンジス川の沐浴(もくよく)—―。
日常の何げないシーンと旅先での光景がとりとめなく流れる映像をバックに、100匹ものチョウ(?)のオブジェが舞う。漆黒の空間で広がる幻想的なインスタレーションに息を呑む。

「スマホで記録していたムービーを、そのまま映し出したものです。BGMも編集していません。そして、画面の前を飛ぶのは“蝶”ではなく“蛾(が)”なんですよ」

実はこのオブジェのモチーフは、ハチノスツヅリガという蛾であった。

「木の根本にいる青い幼虫が成長したもので、プラスチックを餌にするワックスワームをモデルにしています。きらびやかに羽ばたく姿を見れば“蝶”だと思ってしまう。そんな固定観念に働きかけたくて。実物はいずれも“きれい”とは言い難い存在を、あえて美しい形にしたのです」

今回、個展形式ではなく、インスタレーションに挑んだのにも理由がある。

「いずれは造形だけで表現すると決めていたので。ただ、発表の時期は明確に設定していたわけではありません。2年ほど前から模索を始め、ようやく、納得できるクオリティーに到達できたんです」

ヘッドピースやアクセサリーはモデルが身に付けて初めて完成する。

「装飾は、身に付ける人が輝くことが最優先です。だから、職人的なモードで製作をしています。一方で、造形にはフィルターがないから、自分の“思想”をダイレクトに反映できる。ビューティー的な視点を取り外したものづくりもしてみたかったんです」

素材が語る“記憶”と“時間”

「3DプリンターはFDM(熱溶解積層)方式と光造形機の2種類を使用しています。前者は、樹脂を一層ずつ重ねながら物体を作っていくため、どうしても継ぎ目が表面に出てしまいます。それを『積層痕(せきそうこん)』と呼び、仕上げ時に消されてしまうものでもあります。でも、私には年輪に見えるので、枝や木の製作に重宝しています」

素材の持ち味を活かす。花鳥風月をテーマにしたアートピースから、どことなく漂うみずみずしさの秘密が分かった気がした。

「今回はこの『積層痕』を、“記憶”や“経験”さらには“情報の堆積”に見立てました。空腹の(ワックス)ワームが、それらをしっかりと咀嚼(そしゃく)し、蛾となって羽ばたく。じっくりと時間をかけて醸成した“ほんもの”として表現しています。一方で枝先の花は表層的な“美”だけを吸収した存在として咲かせました。AIやテクノロジーの発達によって、何でもすぐにコピーができる時代を迎えている“今”に対するアンチテーゼの意味を込めたのです」

とはいえ、テクノロジーのすべてにNOを出しているわけではない。

「私もたくさんお世話になっていますしね。ちなみにこの展示もChatGPTとたくさん会話をして、アイデアを研ぎ澄ませました。AIに壁打ち相手になってもらったおかげで、自分のやりたいことや思考がクリアになった。そのやりとりはとても楽しかったです」

そもそもクリエイションの根幹に、3Dプリンターもある。

「そうそう。自分が生み出しているものに対して、ずっと矛盾を抱えていました。私の作品の主な原料はプラスチックです。有機的なものに惹かれながらも、対極の素材を用いている。このインスタレーションで(ワックス)ワームを主役にしたのは、プラスチックを食べてくれる特質を持っていたというのも大きいです。彼らがいてくれることによって、私の作品も土へ還(かえ)れる可能性があるから」

自然と共存するものづくりを目指して

完成までの間に、さまざまな素材メーカーにコンタクトを取ったそう。

「FDM(熱溶解積層)方式では、PLAというトウモロコシに含まれるデンプンで作った素材が使えるので、採用しています。ほかにも植物由来のCNFというものも気になったので、問い合わせをしました。できるだけ環境に負荷をかけずに、クリエイションをしていきたいです」

美に対する概念を揺さぶりながら、有機的な創作を目指す。造形作家としての松野仁美の試みは、新しい扉を開いたようだ。

photo: Tomoko Hagimoto  text: Mako Matsuoka

【正倉院×篠原ともえ】アーティストの新たな挑戦
日常の境界をゆさぶる身体と思考の「実験室」へ 笹本晃の展覧会

散華
日時:〜10月1日(水) 月〜金 12:00〜19:00 土日祝 12:00〜20:00
会場:229GALLERY(東京都台東区台東4-24-2
入場料:併設カフェにて1ドリンクオーダー制
http://www.u-r-u.net/
Instagram:@229.4242

Profile

松野仁美

ヘア&メイクアップアーティスト/アーティスト
サロンワークとヘアメイクアシスタントを経て、2013年に独立。ヘアメイクアップアーティストとして活動しながら、2019年よりヘッドピースの制作を開始。2021年渡韓、2022年に帰国。Kylie Jenner・XG・IVE・あいみょん等、アートピースの提供、2023年には新宿NEWoManでウィンドウ・インスタレーションを発表。
Instagram:@matsuno71 

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