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【what to do】『グリード ファストファッション帝国の真実』から垣間見る流行の舞台裏

”what to do”は知的好奇心にあふれる『マリ・クレール』フォロワーのためのインヴィテーション。今回は映画。現在公開中の『グリード ファストファッション帝国の真実』を取り上げる。合わせてファッションのバックステージをうかがうことのできる旧作も紹介しよう。もっとも、業界のきらびやかな表層を強調しただけの作品や、モード誌の強面編集長が辣腕をふるうような作品は登場しない。映画として観るに耐え、それがたまたまファッションを扱っていたというのが、とりあえずの共通点だ。

「強欲」、あるいは「拝金主義」を意味する英語の「Greed(グリード)」。そのタイトルを聞いて、映画好きなら、今回触れるマイケル・ウィンターボトム監督の2019年の作品より、エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の1924年の無声映画を思い浮かべるかもしれない。シュトロハイムのオリジナルヴァージョンは8時間前後あったとされるが、残念ながら現存しない。現在、DVDなどで観られるのは約2時間の公開ヴァージョン。それでも、十分傑作だ。「泣ける」ことが作品の評価基準となりつつある現状に違和感を抱いている『マリ・クレール』読者にこそ、是非観てほしい。おっと、いきなり脱線。話を元に戻すと、そんなシュトロハイム作品と同じタイトルを付けているのだから、ウィンターボトムは大胆不敵な監督なのだ。

人気ファストファッションブランドのオーナーがモデル

実際、不敵な内容。日本でも人気だったファストファッションブランド「TOPSHOP」を傘下に収めながら、2020年に経営破綻した英アルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿をモデルにしている。作品はエンターテインメント性を高めたフィクションだが、随所でアパレル業界の内幕やセレブリティの軽薄な生態を皮肉たっぷりに描いている。コリン・ファースら11人のセレブが本人役でカメオ出演しているのも隠れた見所だ。


『グリード ファストファッション帝国の真実』
全国順次公開中
公式HP: http://greed-japan.com/
Ⓒ2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

主人公の男性が30年かけてファッション帝国を築いていく過程で、不当な低賃金で南アジアの女性たちに服を作らせ、その利益を搾取する強欲ぶりを紹介。その彼が60歳の誕生日を祝うためにギリシャのミコノス島で開いた盛大なパーティーの様子と並行し、ファッション業界やセレブたちの「不都合な真実」を描いていく。ファッションをテーマにしているが、1980年代以降、地球を覆っていった新自由主義的な資本主義の矛盾と盛衰を描いた映画として観ることもできるだろう。

『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』
DVD発売中
価格: ¥3850(税込み)

服の本当のコストを払っているのは誰?

この映画を見終わって、気軽に買っていた安価な服の来歴が気になった人もいるかもしれない。そんな人には『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』(2015年、アンドリュー・モーガン監督)をすすめたい。こちらは「服に対して本当のコストを払っているのは誰か?」という問題を提起するドキュメンタリー。欧米のファッションブランドの多くが生産を依頼していたバングラディシュの縫製工場の入る商業ビルが2013年に崩落し、1134人が亡くなり、2500人以上が負傷した。その惨事以来、エシカルな服作りへの関心が急速に高まった。そんな中、作品では、ファストファッションが世界に拡散していく過程で、どのような負の影響を社会に与えているのかを淡々と追っていく。コロナ禍で着飾る場が減り、装いでも「ニューノーマル」が求められている今こそ、観ておきたい。


『都市とモードのビデオノート 【デジタルニューマスター版】』
DVD発売中
価格: ¥4180(税込み)
発売元・販売元:㈱東北新社
© 1989 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH

作風の異なる記録映画をもう一つ。こちらは山本耀司の創作のプロセスを追った『都市とモードのビデオノート』(1989年、ヴィム・ヴェンダース監督)。『パリ、テキサス』(84年)や『ベルリン・天使の詩』(87年)が評価され、世界的な監督として知られるようになったヴェンダースのクリエイションが、山本のそれと交差する様子がスリリングだ。ロビー・ミュラーの映像も美しい。日本経済の低迷が続く今、作品を通して1980年代末の東京の高揚する雰囲気を懐古することもできる。

ワイズマンが描くファッションの実相

ドキュメンタリーなら、巨匠フレデリック・ワイズマン監督の作品も欠かせない。80年に『モデル』、83年に『ストア』という作品を残している。『モデル』ではニューヨークのモデル事務所を舞台に、広告写真の撮影現場などをナレーションなしで淡々と記録していく。そこでは華やかなファッション業界を描きながら、マスメディアの持つ大衆操作の側面も浮き彫りにする。『ストア』は高級百貨店「ニーマン・マーカス」ダラス本店で、クリスマスシーズンの販促活動など様々な側面を記録。ここでは衣類を含む商品に様々なイメージを付加することで価値を増し、それが消費されていく過程が丹念に描かれていく。

自宅にあったワイズマンとアルトマンの関連資料。ワイズマン作品の上映情報はコミュニティシネマセンター(http://www.jc3.jp/)で要確認。『都市とモードのビデオノート』のパンフレットもあったと思ったが見つけられなかった(撮影・高橋直彦)

アルトマンならではのシニカルな視点

最後は、ロバート・アルトマン監督の『プレタポルテ』(94年)。パリコレを舞台にしたファッション業界のドタバタを、アルトマンが得意とする群像劇でシニカルに描いた。実際のコレクション会場にもカメラを入れ、ソニア・リキエルや三宅一生の姿も収められている。強烈なラストは、ウィンターボトム作品に負けず劣らずアルトマン流のファッション業界への毒を含んだメッセージになっている。

『プレタポルテ』
DVD発売中
価格: ¥1571(税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

ファッションは映画に限らず軽佻浮薄なものの象徴として、否定的に描かれることが多いが、コロナ禍を経て、その価値が見直され始めているように感じる。「装う」ことの本質的な意味を問いつつ、社会的な問題とも真摯に向き合いながら創作を行うデザイナーやアパレルが国内外で増え始めているからだ。今回取り上げた映画は、次世代のファッションについて思いを巡らせるきっかけにもなるだろう。ワイズマン作品などはDVD化されているものが少なく、すぐに観ることは難しいが、「絶対に観る」と念じ続けていれば、映画祭などで不意に観ることができると、甚だ心許ない経験ながらアドバイスしておきたい。

Profile

高橋直彦

マリ・クレール副編集長。神田駿河台のアテネ・フランセ文化センターから池袋の文芸座、京橋の東京国立近代美術館フィルムセンター(現在の国立映画アーカイブ)、そしてシネ・ヴィヴァン六本木へ――。学生時代の映画体験が身体的な移動を伴うことと密接不可分で、未だに液晶画面に配信された映画を観ても本当に観た気がしないのは自分だけだろうか?

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