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<行定勲のシネマノート>第20回 くまもと復興映画祭 開催します!!

熊本復興支援映画祭2019実行委員会事務局

【3月26日 marie claire style】今年も私がディレクターを務める「くまもと復興映画祭」の季節がやってきた。熊本の小さな温泉町で始めた菊池映画祭に端を発し、2016年に起こった熊本地震の復興を応援する形で名称を改め、今年で3回目の開催になる。私が理想とする映画祭とは、まず観客と作り手が直接映画について語り合い、今まで知らなかった才能や映画の見方を観客と共有する場所であることだ。私も数々の映画祭に招待され映画に浸る夢のような時間を過ごしてきた。自分の作った映画をたくさんの観客に観ていただける喜びと、映画を愛する人たちとの新しい出会いは、その後の映画人生の糧となった。

 さて、「くまもと復興映画祭」には今年も素晴らしい作品が集まったので紹介したいと思う。まず、開幕作品は、芸人のガレッジセール・ゴリが照屋年之監督として本格的に挑んだ『洗骨』という映画だ。この作品は海外の映画祭で話題を集め、昨年ニューヨークで開催された「Japan Cuts」で観客賞を受賞した。死者の骨を洗うという南の島の古くからの弔いをするために集まった家族たちのそれぞれの事情と想いのぶつかり合いを、ユーモアを交えながら描いた家族劇だ。生と死を結びつける島の美しさに思わず涙してしまった素晴らしい映画だ。

 招待作品は選りすぐりの若手の映画を選出した。昨秋の東京国際映画祭で観てすぐに上映を決めた穐山茉由監督の『月極オトコトモダチ』は、レンタル友達として出会った男の子との越えられない関係を通して男女の在り方を繊細に描き出す爽やかな映画。ぴあフィルムフェスティバルでグランプリに輝いた工藤梨穂監督の『オーファンズ・ブルース』は、記憶が欠落する少女が行方不明の幼なじみを探しにいくロードムービーで、若い時にしか表現できないきらめきが独自の世界観で描かれる心揺さぶられる青春映画である。韓国の巨匠ポン・ジュノの助監督も務めてきた片山慎三監督の『岬の兄妹』は、仕事をクビになり生活に困った兄と自閉症の妹が生き延びるために売春という犯罪に手を染めながらも、愛とは何かを浮き彫りにしていく衝撃作である。サンセバスチャン国際映画祭で22歳の若さで最優秀新人監督賞に輝いた奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』は、東京から雪深い田舎町に転校してきた少年の前に小さなイエス様が現れる不可思議で独特なユーモアのある物語を巧みな演出で描き出す、新世代の映画の兆しを感じる注目作だ。大野大輔監督の『アストラル・アブノーマル鈴木さん』は、「ひよっこ」「この世界の片隅に」のテレビドラマやCMでも話題の松本穂香の驚くべきダークな演技に魅了される、どんな映画にも似ていないオフビートで描かれる作品だ。

 そして、拙作『ナラタージュ』で主演した有村架純の特集上映。デビューからこれまでの役者としての彼女を掘り下げるトークショーも企画しています。さらに新作『多十郎殉愛記』が話題の熊本出身の高良健吾もスペシャルサポートしてくれる「くまもと復興映画祭」の楽しみは限りない。熊本城が完全復活するまであと17年。この映画祭は、私のライフワークになっていくのではないと思っている。春うららかな熊本の情緒を感じてもらいながら、ラーメンや馬刺し、まろやかな菊池の温泉と自然に触れていただきながら、映画三昧の3日間を過ごしてはいかがでしょうか? 「くまもと復興映画祭」は4/19~21開催です。皆様、熊本でお待ちしてます!!

■お問い合わせ先
熊本復興支援映画祭2019実行委員会事務局/096-284-1552

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
・くまもと復興映画祭 公式HP:www.fukkoueigasai.jp
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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