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<行定勲のシネマノート>第19回 『ROMA/ローマ』

(c)Netflix/Courtesy Everett Collection/amanaimages

【3月12日 marie claire style】今年のアカデミー賞は是枝裕和監督の『万引き家族』が外国語映画賞に、細田守監督の『未来のミライ』が長編アニメーション映画賞に、2作品も日本映画がノミネートされるという喜ばしい年だった。このコラムが皆さんの目に届いている頃にはもう結果は出ているでしょう。『万引き家族』は何と言ってもカンヌで最高賞のパルムドール、LA映画批評家協会賞では外国語映画賞、そして前哨戦のパームスプリングスでは国際映画批評家連盟賞を受賞しているのだから大いに期待できる。

 しかし、対抗馬があまりにも強敵だから気が抜けない。5年前『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞を総ナメにしたアルフォンソ・キュアロン監督の最新作『ROMA/ローマ』という途轍もない傑作がそれだ。この『ROMA』はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を、ゴールデングローブ賞では『万引き家族』を抑えて外国語映画賞を受賞し、アカデミー賞には作品賞、監督賞など10部門にノミネートされている評価の高い作品なのである。

 舞台はメキシコシティのコロニア・ローマという街。ある家族と住み込みで家政婦をする若い女の日常生活を丹念に描いた人間ドラマだ。4人の子供たちの世話や家事をして毎日を過ごす主人公のクレオ。ボーイフレンドとのデートや営み、雇い主である夫婦の関係の破滅などを交えたリアルな家族劇だ。その個人的な物語は前作の宇宙を舞台にした壮大な映画とは違い、モノクロームの美しい映像でディテール豊かに描かれている。おそらくアルフォンソ・キュアロン監督の思い出を元に映画化した作品なのだと思った。特にクレオが祖母と子供たちを連れて映画館に行く場面があるが、そこで観る映画が『宇宙からの脱出』であることなどは、監督の思い出の再現らしいところである。ちなみに『宇宙からの脱出』はキュアロンが8歳の時に公開された映画で、『大脱走』を監督したジョン・スタージェスの作品だった。

 しかし、この『ROMA』が素晴らしいのは感傷的な記憶の物語で終わらないところである。旅に出かけた家族が遭遇する山火事だったり、妊娠したクレオがベビーベッドを買いに出かけた時に巻き込まれる抗議暴動の学生たちと警官の対立など、スペクタクルシーンが日常に突然描かれる。その度に私は目を丸くしパソコンの画面に顔を寄せた。そして、クライマックスの海の場面の緊張感たるやなかった。これ、どうやって撮っているのだろう? と考えてしまうほどで、普通では考えられないショットの数々を創造し、日常を一瞬にして非日常に変えてしまうキュアロン監督の圧倒的な映像の力は何度見ても飽きることのないものだった。

 この作品を製作・配給したNetflixは、インターネット配信で公開する上映形態をとっており、スクリーンで観られる機会は映画祭のみである。映画館で公開しない映画は映画としてみなさないカンヌ国際映画祭は、Netflix作品は選出しなかった。私ももちろん、この作品をスクリーンで観る機会を逃したので、パソコン画面で観た一人だ。大きなスクリーンで観るべき映画なのは歴然としているから残念でならない。それでも最後のクライマックスでは自然と涙が溢れていた。映画はスクリーンで観るものと私は思っている。しかし、こんな物凄い作品が配信で公開される時代になったのは新しいカタチとして評価するべきなのか。皆さんはどう思われるだろうか。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
・ROMA/ローマ 公式サイト:www.netflix.com/title/80240715
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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