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<行定勲のシネマノート>第10回 オリジナル映画の逆襲

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【8月30日 marie claire style】日本映画ではオリジナル作品を作ることは正直、大変である。近年の日本映画でヒットしているのは大抵ベストセラー小説の映画化、人気少女漫画の実写化、連続テレビドラマの劇場版だったりする。これらは映画化決定の段階ですでに認知度が高いので企画が通りやすいのだ。それに比べてオリジナル作品はよほど主演俳優が有名であるとか、海外の有名映画祭で大きな賞を受賞したりしないと売りにくいと思われ企画が通りにくいのだ。

 私の助監督時代は、日本映画は監督が十人いれば十色の多様性ある個性の強い作品がたくさんあった。しかし、その時代の観客は邦画には見向きもせず、ド派手なハリウッド映画一辺倒だった。私が関わった映画を観に劇場に出向くと10人ほどしかおらず、そのほとんどが知り合いだったことがある。その頃から私は日本映画に観客が戻ってくることを願っていた。

 そんな過酷な時代に私はデビューし、2001年に『GO』という映画が幸運にも評価され、04年には『世界の中心で、愛をさけぶ』の大ヒットに恵まれた。しかし、その2作品とも有名小説の映画化だった。それから、日本映画のプロデューサーたちはこぞってベストセラーや人気漫画を読みあさって手当たり次第、映像化権を奪い合った。私も原作のある映画を撮り続け、時にはその波に逆らってインディーズでオリジナルも作ったが、その大波を越えることは容易くはなかった。

 しかし、人間は飽きる。昨年くらいから原作ものやキラキラ青春映画の動員力が下がってきた。作り手たちは「今こそオリジナルを!」と口にするようになってきた。

 是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌでパルムドールを獲得し、かなりの動員数を記録している今年、低予算のインディーズムービーが異例の大ヒットを記録している。上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』という映画だ。公開から1ヵ月たってもミニシアターで満員が続く記録的な大ヒット。わずか300万円の制作費。ほとんどがオーディションで選ばれた無名の役者たち。もちろん認知度は低い。しかし、発想は観客の想像をはるかに凌駕し、ほとばしる勢いの笑いと涙の自由に満ちたエンターテインメント作品として仕上がっている。

 ゾンビ映画を撮影している撮影隊に本物のゾンビが現れて襲われる・・・・・・という内容であるが、そこから先は観る人のために口外できない。この映画はまさにゾンビのように、何度も終わっては始まる映画なのだから。

 しかし、大手映画会社には絶対この映画は作れなかった。インディーズだったからこの映画はできた。映画はそもそもオリジナルで作られるべきなのだ。その方が面白いに決まっているのだということを『カメラを止めるな!』は実証した。映画的なアイディア、シナリオが面白く、演出が思いっきり振り切れている。どんな展開が待っているのかスクリーンに映し出されるまでわからないそのワクワク感こそが醍醐味である。

 もちろん、この小説を映画で見たかった、という作品が悪いと言っているのではない。猫もしゃくしも原作に頼るというのはどうなのか? と思うのだ。

 観客には、もっとオリジナルに触れてもらいたいと願っている。支持する人たちが増えれば映画監督たちは、とっておきの見たことのない世界を思いっきり冒険しながら面白い映画を撮って観客に披露するチャンスをつかむことができるから。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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