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<行定勲のシネマノート>第5回 映画祭

菊池映画祭

【4月11日 marie claire style】日本各地で映画祭が開催されていることをご存じだろうか? 近年は地方創生が唱えられ、町興しの一環として映画祭を企画する自治体も多くなったようだ。最近では映画監督が故郷のために自ら運営に関わっている映画祭も増えた。「なら国際映画祭」は河瀬直美監督が、「さぬき映画祭」は本広克行監督が、そして私は「くまもと復興映画祭」のディレクターを務め、今年も4月6~8日の3日間、開催された。

 すべては6年前、故郷熊本県の北部の小さな温泉街で開催される「菊池映画祭」で私の映画が特集上映され、ゲストとして呼ばれたことがきっかけだった。そのときは、上映会場はがらがらで閑古鳥が鳴いていた。私は寂寥感に包まれたが、なぜか菊池が気に入った。映画祭スタッフの心意気がよかった。旨い食事とお酒、美しい水と緑の渓谷、肌がすべすべになる温泉。もてなす武器が揃っていた。菊池は映画祭に向いている。長年ファンを虜にしている映画祭は都市の中心から少し離れた所で開催されている。わざわざそこを訪れることで、映画祭という非日常的な雰囲気により浸れるからだと思う。私は菊池映画祭のディレクターを頼まれ、引き受けた。

 しかし、お客を呼ぶのはそんなに簡単ではない。他の映画祭とは違う何かが必要だと考え、俳優の特集上映を目玉にした。1年目は地元出身の高良健吾、2年目は中井貴一、3年目は妻夫木聡、そして、4年目の今年は女優、薬師丸ひろ子に来てもらい、彼らの映画人生を語るトークショーはファンの胸を熱くした。その他、映画に関わったミュージシャンのライブで盛り上げ、映画の艶っぽい部分にフィーチャーした大人のためのトークショー名物企画になった。その結果、500人くらいしか集客できなかった小さな映画祭が4年間で延べ4000人の観客で溢れるほど成長した。

 もう一つのこだわりは、毎年オリジナル短編を製作し上映していることだ。1作目の『うつくしいひと』は熊本出身俳優による熊本弁の熊本オールロケで、美しい熊本を再認識するような映画となった。しかし、その成功の直後の2016年4月14日と16日、熊本地震が県民を襲った。傷ついた熊本にエールを送るために私たちは「くまもと復興映画祭」と名前を変えて継続した。

 昨年は、地震から半年後を描いた続篇『うつくしいひと サバ?』を製作。熊本城内にある二の丸広場の野外スクリーンに1万人の観客を集めて上映し大成功を収めた。

 私は映画祭に一本の映画を作るような熱い想いで取り組んでいる。その都市の特色を生かしたそれぞれの映画に対する愛を感じさせる地方映画祭に、ぜひ足を運んでほしい。きっと、映画がより好きになるはずだから。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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