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<行定勲のシネマノート>第1回『リバーズ・エッジ』

(c)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

【1月25日 marie claire style】このたび、新しく連載をさせていただくことになった映画監督の行定勲です。毎回、私が独断で選んだ、いま観てほしい映画、語りたくなる映画を独自の視点から掘り下げて紹介していこうと思っています。きまぐれな駄文ではありますが、お付き合いいただければ幸いです。

 さて連載一回目は私の最新作『リバーズ・エッジ』について語らせてもらいます。この映画、自分でいうのもアレなんですが、かなり攻め込んだ映画になっていると思います(笑)。私がそうせざるを得なかったのは、この映画の原作になった漫画が、我々に強烈な影響を与え、時代に潜む闇を描き伝説になった1990年代のサブカルチャーシーンの代表格ともいえる岡崎京子の最高傑作だったからです。

 映画の舞台は95年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起こる前の年の東京。世の中の価値観が変わってしまう前夜でもがいている少年少女の物語である。川の向こうに屹立する工場群が吐き出すスモッグ。セイタカアワダチソウが群生した埋立地。テレビではオゾン層が減少していると伝えている。そんな地球の片隅で、生きていることも死んでゆくことも実感できないでいる女子高生の若草ハルナ。ヤブの中で見つけた死体を宝物にしている魅惑的な少年、山田というクラスメイトに誘われ、遭遇する生命の深淵を覗き込むような見知らぬ世界が描かれる。

 昨今の日本映画に有名漫画原作の実写化が多いのはみなさんお気づきだろう。これまで私は漫画の実写化を拒んできた。それは、漫画の熱狂的なファンのイメージを充たすキャスティングなんて到底期待できないと思うからだ。漫画のキャラクターをあえて思いっきり裏切ってみるというのはどうかと考えたりもしたが、それを望む人はもっと少ないだろう。

 では、なぜ私はこの『リバーズ・エッジ』を映画化したのか。それは、どうしてもこの漫画を映画化したいと切望した二階堂ふみという女優の存在があったからである。彼女は腑抜けた企画が横行する日本映画界に衝撃を与えたいと願った。この伝説の漫画で今の時代に斬り込みたいと言うのだ。

 底知れぬ闇に手を突っ込むことは怖い。傷つくことを覚悟しながらこの映画をつくっている間、明確な答えなど求めず、ただひたすら歪んでいく若者の感情と向き合った。映画は誰がつくりたいのかが一番の要だ。その情熱に集まってきた俳優たちは見事に原作にあるキャラクターを凌駕してくれたと思う。ぜひ、それをあなたの目で確かめてほしい。

■プロフィール
行定勲
(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひとサバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』(18年2月16日公開予定)。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada

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