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【藤井聡太三冠が竜王奪取で最年少四冠!】盤上ゲームの若き天才を描いた名作3選【3】

Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中。ベスを演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ

将棋の藤井聡太三冠が竜王戦七番勝負で四連勝、竜王のタイトルを奪取するとともに史上最年少の四冠を達成! これにちなみ、究極の頭脳戦である盤上ゲームに人生を賭ける人々を描いた作品を紹介しています。最後の作品は数奇な運命に翻弄されながらもチェスプレーヤーとして生きる女性が主人公。タイトルはチェスの戦術名でもあるという「クイーンズ・ギャンビット」です

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『クイーンズ・ギャンビット』~主人公の変化を表現したファッションにも注目

2020年に配信スタートしたNetflixオリジナルシリーズで、最も高い評価を受けたのは『クイーンズ・ギャンビット』だったといえる。アメリカでプライムタイムに放送されたテレビドラマの中から選ばれる「プライムタイム・エミー賞」をはじめ、数々の賞を獲得した本作は、米ソ冷戦の時代に活躍したチェスの天才少女の物語だ。

主人公、エリザベス・ハーモン(通称ベス)は9歳のときに交通事故で母親を亡くし、養護施設に入れられた。周囲に馴染めず暗い日々を送るベスだったが、用務員のシャイベルと出会い、チェスの手解きを受けるようになり、才能が開花し始める。

用務員シャイベルとの出会いがベスの人生を決定づけることになる

ベスには、もうひとつ養護施設で出会ったものがあった。それはクスリである。50年代、アメリカの施設では子どもを扱いやすくするために強い精神安定剤を与えるのが普通だった。ベスは9歳にしてチェスと薬物を知り、運命を左右されることになる。

13歳になったベスは養父母に引き取られ、普通の高校生としての生活を送るが、ここも安住の地ではなかった。養父母の仲はけっしてうまくいっているとはいえず、父不在の家庭は経済的に困窮していた。そんなある日、ベスはケンタッキー州のチェス大会が開催されるのを知り、賞金目当てで出場する。当時のチェスは男性社会。完全アウェイな状況の中、ベスは競技経験がないにもかかわらず強豪を次々と倒し優勝する。この日を境に、ベスのチェスプレイヤーとしての人生が始まった。

天才少女として注目を浴び、目覚ましい戦績を収めて金も名声もかちえるが、その人生は平坦とは程遠い。上手に人を頼ることができず、精神的に自滅しやすい脆さがあり、困難から目を逸らすために薬物や酒に依存してさらに闇に堕ちる。『クイーンズ・ギャンビット』は、強靭な天才のサクセスストーリーではなく、不運や弱点に苛まれながらギリギリ生きている一人の女性の物語だ。そこに多くの人が感情移入し、大ヒットにつながった。

養母との関係も切ない。ベスを引き取った当初はチェスをやることに理解を示さなかったのに、チェスがお金になるとわかったとたん、学校を休ませてベスを国内外の大会に出し、自分も常に付き添って「手数料」を要求、酒と美食と恋を楽しむ。そんな養母にベスは反発するどころか信頼と愛情を示す。お互いが唯一の家族だからだ。孤独で不安定なふたりが心を寄せ合って生きる姿は胸に迫る。

似たもの同士の養母とベスは共依存を強め、それが後にベスの破滅的行動の原因となる

もうひとつ、この作品の見どころは何といってもベスのファッション。衣裳デザインを担当したガブリエル・バインダーは、施設や養母の言いなりで野暮ったい服を着ていたベスが、ひとりになって自分の力で着飾ることに目覚め、自らを模索するかのように服を選び、洗練されていく過程を表現している。ベスを演じたアニャ・テイラー=ジョイはファッションモデルとしても活躍しているだけあって見事な着こなし。本作で注目されたこともあり、ディオール グローバルアンバサダーに抜擢された。

ベスが生きた時代のモードと、ベス自身の心境の変化がコスチュームでも表現されている

ドラマのラストでベスが身にまとう白いコートと帽子は、彼女がチェスの世界に居場所を見出したことを象徴しているという。それが何を表しているか、ドラマを観て確かめてほしい。

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Profile

香月友里

かづき ゆり。フリーライター。出版社の編集者を経てライターに。同居する5匹の犬猫たちにお仕えしながら、映画とドラマと演劇とJ-POPにどっぷり浸る日々を送る

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