土曜日はコム・デ・ギャルソンデー【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】
2026年春夏のパリ・ファッションウィーク(パリコレ)が9月29日から10月7日まで開催されました。期間中、パリ市内各所でショーやプレゼンテーション、またイベントなども数多く行われました。ファッションだけでなく、街で見かけた面白いモノやコトをつれづれなるままにつづります。
2026年春夏のパリ・ファッションウィーク(パリコレ)が9月29日から10月7日まで開催されました。期間中、パリ市内各所でショーやプレゼンテーション、またイベントなども数多く行われました。ファッションだけでなく、街で見かけた面白いモノやコトをつれづれなるままにつづります。
[INDEX]
ファッションウィーク期間中の土曜日といえば、コム・デ・ギャルソンの3ブランドがショーを行うため、毎シーズン、この日を「コム・デ・ギャルソンデー」と呼ぶ人が多いようです。まずはジュンヤ・ワタナベからスタート。

うれしいことに、お隣の席は有名なイギリス人帽子デザイナー、スティーブン・ジョーンズでした。英国王室の帽子から、ディオールやコム・デ・ギャルソン、アレクサンダー・マックイーンなどのために独創的な帽子を作っています。先シーズン、パリに来た時、パリ市立ガリエラ美術館で展覧会が開催されていたので、見に行ってきました。既成概念を打ち砕き、そして美しい帽子の数々に感銘を受けました。とてもきさくで楽しい方で、ショーが始まるまでの時間、帽子作りのこと、展覧会のことなどいろいろ話をし、写真も撮らせてもらいました。
さて、今シーズンのテーマは「日常から生まれた非日常のアート」。コレクションノートには「今までとは異なるアプローチで、アートピースのような服を作ることを目指した。
身近にある既製品(レディメイド)を素材の一つと考え、それらを本来の用途とは異なる文脈で用いて、常識的な手法では生み出せないフォルムの探求する事がテーマ」とあります。



モデルたちは手元に「DRESS WITH STRAW HATS」「DRESS COAT WITH HANGERS」など、服の説明を書いたカードを持って歩いてきました。まるでモデルが番号札を持ってお客様があつまるサロンで新作を披露した、かつてのオートクチュールのようです。説明にあるように、靴や帽子、下着やハンガーなど身近な素材を使っています。靴などは既製品ではなく、このために作ったのだそう。タイツとワイヤーで形作ったドレスもありました。たしかに服という形をとって、新しい美しさを生み出したアートピースでした。
コレクションノートには「Pure and playful」というテーマが書かれていました。「シンプルで即興性のある、子供の遊びのような感覚を大切にしてものづくりに取り組んだ。スター(星)が今回のキーポイント。希望・喜びのシンボルであり、誰にでもその意味が伝わるシンプルなモチーフとして選んだ」とのことです。



長谷川白紙の手がける音楽が流れる中、詩人でアーティストの青柳菜摘が詩を朗読。不思議な空気が漂う中、モデルが登場します。星のモチーフは随所に。でも子供のころにイメージしたようなキラキラする星とは異なり、星のモチーフをつなげたり、ハーネスに星をつけたり。やはりここは“ノワール流”の星の数々です。靴はジミー チュウとのコラボレーション。そういえば、ジミー チュウのアイコンモチーフはスタースタッズでした。
エルメスの会場に向かう途中、乗っていたメトロがなぜか最寄り駅を通過。「なんで?」と思い、急いで徒歩で一駅戻ったところ、メトロの入り口は封鎖され、周辺には警察官がたくさんいて、ものものしい雰囲気でした。あとで聞いたところ、近くで爆破予告があったのだとか。


会場に入ると砂が敷き詰められていました。よく見ると、貝殻も混じっており、南仏の海岸が表現されています。広大なカマルグの自然から抽出した色と乗馬の要素を掛け合わせたコレクションです。



ⓒFilippo Fior
エルメスのアーカイヴに保存されている1930年代の鞍(くら)から着想を得たフォルムが随所に施され、さまざまな加工のレザーが使われています。よく見ると、細部は職人の細かい作業が感じられます。ビスチェやブラを多用しながら、シルクカレとの組み合わせ方も新鮮です。茶色やベージュなどの色の加減が何ともいえずきれい。毎回思いますが、エルメスの色はほんとうに美しい。
バッグの数々にももちろん目が行きます。



ⓒFilippo Fior
ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーの手がけるエルメスは、センシュアルさが前面に出ながらも自由で力強さを併せ持っている。そんな魅力を感じます。
川久保玲さんは私たちの想像の域を超えることをする。今回もまた。登場した服は表現しがたいオブジェのよう。ものの詰まった麻袋を重ねたようなフォルムや、しわだらけの麻の布。そこに加わる白やピンク。それらが不思議なバランスと調和と美しさを生み出していました。



今回のコレクションについて、川久保さんは「完成された服にダメージを与えることにより、新しい感覚や価値観、ポジティブな気持ちを作り出すことを信じて制作した」のだそう。そのダメージとは「完璧なオブジェのような服を制作し、それを大きな機械に入れて洗うこと。これまで取り組んだことがない手法でありハードな仕事であるが故に、とても大きな決心が必要だった」。決断するまでに1か月かかったといいます。
関わる人たちがみんな必死に服を作り、「完璧」と思えるものが出来上がったところで、大きな機械に入れて洗う。どのような形になるかも想像できない、完璧だと思うものを壊していく作業の先に何があるのか。私たちには想像のできない覚悟が必要です。
しかし、そうした覚悟や重い決断のもとで生まれてきた服を見終わった時に湧いてきた感情は、とてもポジティブなものでした。スペイン人歌手のファーティマ・ミランダの独特な歌声や日爪ノブキさんの帽子も相まって、どこかプリミティブな、そして力強さが伝わってきました。
川久保さんは「それでも、自由やお互いを思いやることがなくなりそうな異様な世界の中で、何か強いことをしなくてはならないと思い決断に至った」と締めています。
何を美しいと感じるかは、人それぞれです。しかし、私自身はコム・デ・ギャルソンの服を見ていると、自分が美しいと思うものの視点が変化し、社会の価値観に振り回されなくてもいいと思うようになるのです。それは服から力をもらっているということでもあるかもしれません。
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
・新生ロエベに期待【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】
・ジョナサン・アンダーソンのディオール【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】
リンクを
コピーしました