日本の伝統工芸が切り開く新しい未来。京都・西陣織「HOSOO」

千年を超える技と美意識が、伝統に息づきながら現代と響き合う。日本の伝統工芸は、静かに、しかし力強く、新しい表現の扉を開いている。

千年を超える技と美意識が、伝統に息づきながら現代と響き合う。日本の伝統工芸は、静かに、しかし力強く、新しい表現の扉を開いている。
日本の伝統工芸が世界から注目を集めている。ラグジュアリーの世界を形作る上でも欠かせない存在であり、その価値は高まっている。「MORE THAN TEXTILE(テキスタイルを超えて)」を信条に挑戦を続けるのが、元禄元年(1688年)創業の京都・西陣織の「HOSOO」。12代目で社長の細尾真孝さんは、新たな伝統工芸のムーブメントのフロントランナーだ。
今年4月に開催されたミラノデザインウィークで、イタリアのデザインデュオ「ディモーレスタジオ」とコラボレーションを行い、新作のテキスタイルを披露した。

展示の舞台となったのは、ミラノ在住のアーティストであるオザンナ・ヴィスコンティの歴史ある邸宅兼アトリエ。重厚な空間に協業でできたテキスタイルを使った家具が並んだ。
テキスタイルのデザインの源となったのは、細尾家に代々受け継がれてきた帯の図案。着色されないまま保存されている図案を使い、ディモーレスタジオが選んだ色彩により、現代的なデザインが生まれた。
西洋と東洋、伝統と革新、現在と過去という要素が交錯した作品は話題となり、「ぜひ見たい」という人で長蛇の列ができたほど。

「これまで革新という部分に力を入れてきたが、今回は自分たちの歴史という原点に立ち返った。西洋の視点が入ることで、新たに気付かされることも多かった」
1200年の歴史を持つ京都の西陣織は、高度な技術に裏打ちされた伝統工芸だ。しかし、市場規模はこの30年ほどで10分の1にまで縮小している。
海外展開を試みてはみたものの、事業にはならなかった「HOSOO」の転換点となったのが、世界的な建築家ピーター・マリノとの出会いだった。パリで開催された日本文化を紹介する展覧会で「HOSOO」の作品を見て、フランスの「ディオール」の店の内装用の布の開発を依頼してきた。しかも鉄の溶けたような柄。和柄でなければ勝負できないというのが思い込みだったことに気付いた。
だが、ネックとなったのが、織機。着物や帯の布を織る約32cmという幅が可能性を狭めていた。150cm幅の織機を開発したことで、西陣織の持つ可能性を広げたという。

現在、「HOSOO」のテキスタイルは個性や格式を求める国内外の高級ホテルやブティックのインテリアに欠かせない存在となっている。
伝統と西陣特有の細かな分業体制、職人の技術に裏打ちされた革新的な取り組みは2023年、優れたクラフツマンシップの継承発展を目的としているフランスのLVMHメティエ ダールとのパートナーシップ締結へとつながった。
ほかにも東京大学などと組んで最新技術を取り入れた織物の研究開発なども行っているが、決して斬新さだけを追求しているわけではない。2020年に古代染色研究所を設立。日本に古代から伝わる自然染色や植物染めの再現の研究を行っている。活動の中心となっているのは20~30代の若い世代だ。また、長い歴史と神聖な意味も持ち、日本人に親しまれてきた麻布を日本発の高級なテキスタイルへ発展させようと、エイベックスエンタテインメントが展開していたラグジュアリーヘンプテキスタイルブランド「majotae(マヨタエ)」の事業を10月1日に継承した。

「日本の伝統工芸には世界の人が知らない技術や素材、ストーリーがまだまだたくさんある」と、細尾氏は言う。

「『伝統を守る』という言葉の響きはいいけれど、そこに安住するのは思考停止と同じ。伝統を強く信じているからこそ挑戦を続ける。伝統はそんな簡単に壊れるものではありません」
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
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