「グランドセイコー」がミラノデザインウィークに出展。吉岡徳仁氏とコラボした展覧会を開催
イタリア・ミラノで4月8~13日に行われた世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク2025」にグランドセイコーが出展。日本を代表するデザイナー、吉岡徳仁氏とのコラボレーションによる展覧会「TOKUJIN YOSHIOKA – Frozen」を開催した。ミラノの会場で、吉岡氏に話を聞いた。
イタリア・ミラノで4月8~13日に行われた世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク2025」にグランドセイコーが出展。日本を代表するデザイナー、吉岡徳仁氏とのコラボレーションによる展覧会「TOKUJIN YOSHIOKA – Frozen」を開催した。ミラノの会場で、吉岡氏に話を聞いた。
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ミラノデザインウィークは、毎年4月にミラノで行われる世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」と、同時期に市内各所で行われるさまざまなブランドやデザイナーによるイベントやアート展示「フォーリサローネ」を合わせた総称だ。「フォーリサローネ」は、ミラノの歴史的な地区であるブレラを中心に、街のあらゆる所で展示や催しが展開される。街を散策しながら気軽に立ち寄ることができる、オープンでインタラクティブな祭典だ。

グランドセイコーはセイコーウオッチの最高峰ブランド。2017年に独立ブランド化し、日本を代表する高級時計として世界で支持を得ている。ミラノデザインウィークには2018年以降、グランドセイコーとして出展し、2023年から「フォーリサローネ」の公式タイムキーパーも担っている。今年はブレラ地区にある歴史的建造物 Palazzo Landriani(パラッツォ・ランドリアーニ)を舞台に、日本を代表するデザイナー吉岡徳仁氏とのコラボレーションによる展覧会「TOKUJIN YOSHIOKA – Frozen」を開催した。
「水」を探求したという吉岡氏が今回創り出したのは、「Aqua Chair」と題した「水の椅子」のインスタレーションだ。吉岡氏が監修した屋内の展示空間には、吉岡氏によりデザインされたガラスケースの中に、流れるように動く秒針を持つグランドセイコー独自の機構「スプリングドライブ」搭載モデルが展示された。

一般公開を翌日に控えた4月7日、吉岡氏が作品への思いを語ってくれた。
これまで吉岡氏は「自然」というテーマを探求し続けてきた。「自然は時代を超える普遍的なもの。アートやデザインの歴史上、とても重要なテーマです」。加えて、「自然を超える美しさはありません。一方で、美しさだけでなく恐ろしさもあり、それがおもしろい」と話す。これまでもミラノで、自然をテーマにしたインスタレーションを行ってきたという吉岡氏の「日本らしさを表現するつもりは全くありません」という言葉には少し驚いた。それでも、「自然を敬ったり、自然と共生しようとしたり。そういう自然観は日本ならではのものです。自然をテーマに表現すると、意図せず、外国の方から『日本らしい』と言われるんです」と振り返った。

今回の「水の椅子」。氷でできた透明の椅子が整然と並ぶさまは圧巻だった。そして、少しずつではあるが、氷が解け出す様子が確認できた。「水の椅子」を制作した思いについて次のように語った。「水は生命の源。身近だけど不思議な物質です。一方、椅子はデザイナーや建築家のフィロソフィー、考え方が凝縮したもの。その小さい世界の中で、歴史を振り返っても皆がいろんな新しい椅子を考えてきました。この時代の中で全く新しい椅子を創るのは難しいことです。だからこそ、今、誰も発想しなかった『水で椅子を創る』ということに挑戦してみたかったのです」。
表現したかったのは変化する美しさだという。吉岡氏は数日後の作品の姿について自分も想像がつかないと話した。「自然とともに変化していく作品を創ったのは、人間の想像を超えるものを創りたかったからです。美しくなるかもしれないし、ならないかもしれない。偶然の表情とか、どういうふうになるかわからないものとか、そういうものこそいいなと思うんです。スケッチでアイデアを作るのでは、アートは生まれません。プロセスや実験の中で発見したこと、体験したことを使って創造すると、すごく新しいものが創れる。失敗しながら創っていく、それがアートです」。今回の制作においても、クリスタルのように透明な氷の塊を作るのが難しく、何度も試行錯誤を重ねたという。

屋内のグランドセイコーの展示空間も吉岡氏が監修した。グランドセイコーのフィロソフィーは「THE NATURE OF TIME」。自然や季節の移ろいからインスピレーションを受ける感性と、それぞれの道を究めて時の本質に迫ろうとする匠の姿の、二つの日本の精神性を表現したものだ。ミラノデザインウィークの1週間前にジュネーブで開催された国際時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2025」でも、スプリングドライブの製造の地、信州地方の樹氷の美しさを型打ち模様で文字盤に表現した新作モデル「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」を発表している。この新作は、デザインの美しさのみならず、搭載された新しいキャリバーの年差±20秒という精度や、スプリングドライブモデル史上最小となる37mmのケース径を実現したことなど、話題豊富の新作だ。
それでも、ミラノデザインウィークの本展示においては、商品の詳細などの情報は一切なく、あくまでグランドセイコーの世界観のみを表現していた点が印象的だった。「ミラノデザインウィークは、デザインやアート、ファッションに関心のある人が世界中から集まる場。広い対象の方にグランドセイコーのフィロソフィーを知ってもらいたい」とセイコーウオッチは期待を込めている。

吉岡氏もグランドセイコーについて、「繊細かつ詩的だ」と、その美意識を評価する。「氷の椅子」と「樹氷モチーフの時計」とのリンクについては「全くの偶然でした」と裏話を話してくれた。4月8日に始まったグランドセイコーの一般展示には連日約5000人が訪れ、「水の椅子」に驚きの声があがった。


text: Shunya Namba @Paris Office
photos: ©GRAND SEIKO
Profile
吉岡 徳仁
1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動。代表作には、東京2020 オリンピックの聖火リレートーチをはじめ、パリのオルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ「Water Block」、結晶の椅子「VENUS」、虹の教会「Rainbow Church」、ガラスの茶室「光庵」などがある。作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やフランス国立近代美術館(ポンピドゥーセンター)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。国際的なアワードを多数受賞し、アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100 人」に選ばれている。
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