「一楽、二萩、三唐津」と茶人に愛されてきた山口県の萩焼(はぎやき)。なかでも長門市で焼かれる「深川萩」は、360余年の歴史を誇り、茶陶産地として知られる。伝統ある窯元を継ぎながら茶陶を現代に昇華させ、全国のギャラリーからもオファーの絶えない2人の若手作家に聞く、「深川萩」の魅力とは? また近年、地方創生のモデルケースとして注目を集める長門湯本温泉街で、彼らの作品を手に取り、器として日常使いできるスポットも紹介したい。

1657年、毛利氏が治めていた萩藩の御用窯として、三ノ瀬(そうのせ)に開窯した「深川萩」。萩焼は茶陶として名を馳せ、江戸時代より隆盛を誇りながらも、明治維新の後、御用窯としての庇護が外れて、厳しい時代に。すり鉢など日常の器も作り庶民の家庭に広まっていったが、十二代 坂倉新兵衛氏(1881-1960)によって茶陶回帰の流れができ、再評価されるに至った。
「十二代は、萩焼の原点である茶陶を志して京都の表千家に入門し、深く茶道を習いました。古い銘品を参考に優れた作品を制作し、当時まだ珍しかった展覧会での発表を重ね、近代の萩焼再興の中心となったと聞いています」。 こう語るのは、昨年「十六代 坂倉新兵衛」を襲名し、名実ともに次世代の萩焼を担うこととなった坂倉正紘氏。

板倉正紘氏の活動は、東京・神宮前のGYRE]内にある「eatrip soil」などでの器の展示まで作品は多岐にわたるが、十六代襲名までの数年は、まさに茶陶への向き合い方を絶えず模索していたという。
「はじめの頃の数年間は、自分が何をやっていたのかも思い出せないほど、色々なものを試行錯誤で作陶していましたが、思い悩んでいた先にたどり着いたのが、お茶碗でした。長年考え続けてきた、自分のやりたいこと、やるべきことは、ともに“いいお茶碗を作ること”なのではないかと。そうして茶陶に注力していくなかで、萩焼における『坂倉新兵衛窯』の技法やカラーを捉え、自分の個性も少しずつ出していけるようになって、やっと独自のスタイルと言えるものが見つかったことで、襲名に至りました」

襲名前の作品は、正紘氏も「やっと出来上がった自分のスタイルが、よく表れたお茶碗だと思う」と言う通り、おおらかな輪郭や質感が印象的だ。
「淡い黄色や灰色に赤い窯変の浮く伝統的な萩焼の土に、この地で自分が採ってきた土も混ぜています。このお茶碗はその影響か少し生成り色に仕上がっています。萩で使う登り窯は薪で焼くので、置く場所や焼くタイミングなどで雰囲気や色味が全然違ってくるのも魅力。これからも、伝統を絶やさず、“この風土をもって自分が創り出せる器”を追求していきたいと思っています」



「深川萩」で注目すべき、もうひとりの若手作家は、十三代 田原陶兵衛氏を父にもち、「田原陶兵衛工房」を背負って立つ田原崇雄氏だ。長門湯本温泉街からは、深川窯集落の一番手前に位置する工房で、展示ギャラリーを併設していることもあり、気軽に萩焼に触れてみたいという人はぜひ訪れてほしい。

日常使いしやすい器やカップが並ぶなか、ひときわ目を引くのが、崇雄氏が表現する「流白釉(りゅうはくゆう)」の茶碗。萩焼の主要原土である大道土を使用しつつ、萩の稲藁の灰を使った白い藁灰釉に松灰釉を重ね掛けすることで生まれた緑色は、思わず息をのむ美しさだ。

「この辺りに古くから残る窯の周りには、江戸時代に作られた萩焼の破片がたくさん落ちているのですが、ある時、パッと引き込まれる表情の破片を見つけたんです。昔は、窯の薪自体が松だったので、薪をくべた際に自然とその松の灰がかかって、色が変化したのかもしれないと推測できました。昔の技法で、今はあまり採用されない表現もあるのですが、それがほかと比べて優れていないわけではなく、当時はきれいに色が出にくかったり、効率が悪かったりと、さまざまな理由で作られなくなったものも多いんですよね。もちろん当時の土や釉薬(ゆうやく)は現代と若干違うのですが、その破片をもとに土や釉薬の流し方を自分なりに研究していって、流白釉という表現にたどり着きました」
数百年という時を経て、萩焼の子孫が現代に確立させた「流白釉」。茶碗としての機能美はもちろん、元からそこにあったような自然な風合いは、注がれる抹茶に情緒すら与えてくれる。

「萩焼は、他の焼き物に比べて地味なんですが、華やかでないぶん、たとえば花器であれば花を引き立てて、それによって花器自体もより美しく見えたり、食器であれば料理が盛られることで、ごちそう感が増して、器の良さも出たりと、互いに主張し合わず、互いを引き立て合うことができるんです。ですので、萩焼に興味を持ってくださったら、マグカップであればコーヒーを入れた時にどう見えるかなど、日常に溶け込む姿を想像して選んでいただくといいと思います。実際に盛り付けたり、注いだりと、二度たのしんでもらえると思います」
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