高品質の植物染めで知られるのは、京都で「染め」と言えばまず一番に名前が挙がる染屋の老舗「染司よしおか」。染料を植物の根や樹皮から抽出する技法は、日本では奈良時代より前から行われていたとされているが、江戸時代末期創業の「染司よしおか」では、その技術を丹念に研究し、今は6代目となる吉岡更紗が古代染色の伝統を守り続けている。

「初代の頃のちゃんとした記録は残っていないのですが、当時はまだ日本に化学染料は伝わっていなかったので、植物で染めていたと思います。でも明治維新になって欧州から日本に化学染料が伝わると、京都の染屋の多くが化学染料に切り替えました。うちも2代目から使い始め、安定して大量に染められるという理由で、3代目もずっと化学染料を使っていました」
そこから古代染色へと回帰したのは4代目、吉岡の祖父だ。きっかけは戦後1946年から始まった正倉院展だったという。
「祖父が正倉院展で古い染織品を見て感動したんです。自分は化学染料を使っているけど、一千年以上も前の染色の方が素晴らしい、昔の色の方がずっと美しいと感じて、古代染色の研究を始めました。祖父は芸術大学の教授でもあったので、学生さんたちに染色の歴史を教えながら天然染料の研究や調査を行い、徐々に仕事でも化学染料をなくしていきました。その祖父が亡くなり、出版業をしていた父が後を継いでからは、化学染料を使うのを一切やめて、天然染料のみを使うようになりました。その頃は80年代後半で、日本は好景気でつくればつくるだけものが売れた時代です。化学染料と機械化で事業を大きくしようと思えばいくらでもできたけど、父は逆の方に進んだ。今思えばそれが本当によかった。そうでなければバブルの崩壊とともにうちは潰れていたかもしれないし、今のようなものづくりはできなかったと思います」

5代目の吉岡幸雄は、日本の伝統色466色を収録した『日本の色辞典』などの書籍を発行する出版社「紫紅社」の創業者兼編集者で、古代染色研究の第一人者だった。「染司よしおか」を継いだ後も、染師として仕事をする一方、書物や講演などを通じて植物染めの意義を広く伝え、日本古来の美しい伝統色を復活させることに尽力した。2016年に吉岡幸雄による「植物染め日本の70色」が英国のヴィクトリア&アルバート博物館に永久保存されたのは、その成果の一端だ。 そして2019年の秋、旅先で急逝したこの父の遺志を吉岡更紗は受け継いだ。

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