夕暮れ時の「界 加賀」。紅殻格子の色合いが艶めかしい雰囲気を醸し出す
【界を唎く】温泉、伝統文化、そして日本海の育んだ食材。それらすべてを堪能できる「界 加賀」で心と身体を養生する
2022.12.9
ブルーラグーン(アイスランド)、サトゥルニア(イタリア)、そしてバーデン・バーデン(ドイツ)……。温泉を中核に据えた高級保養地が世界にはある。石川県加賀市の山代温泉もそうした保養地に比肩する日本を代表する湯治場だろう。その象徴とも言える宿が「界 加賀」だ。1624年に創業し、北大路魯山人ら、多くの文人墨客に愛されてきた老舗旅館「白銀(しろがね)屋」の運営を2005年に星野リゾートが受け継ぎ、15年に「界 加賀」として再出発した。寒さ身に染みるこの季節、水揚げされたばかりのズワイガニを賞味できることも北陸への旅情をかき立てる。今がまさにハイシーズン。加賀の伝統工芸が随所に鏤められた至極の宿に逗留して、心身をじんわりと養生したい。
小松空港から車で20数分。JR金沢駅からなら特急で加賀温泉駅まで26分。そこからタクシーで10分ほど南進すると、山代温泉の「界 加賀」に着く。23年度末に予定されている北陸新幹線の敦賀駅(福井県)までの延伸によって、首都圏などから山代温泉へのアクセスはさらに容易になるはずだ。
「王道なのに、あたらしい。」を体現した温泉旅館
伝統建築棟と宿泊棟を結ぶトラベルライブラリー。右奥には魯山人が逗留の際に揮毫した屏風も
「界」は星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド。「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、季節の移ろいや和の趣、伝統を生かしながら現代のニーズに合わせたおもてなしを追求している。
「枠の内」に釣り上げられた加賀水引のオブジェが空間の豊かさを感じさせる
宿に着いて、まず目を引くのが、江戸時代・文政年間(1818~30年)に建てられた伝統建築棟を華やかに彩る紅殻(べんがら)格子。加賀の伝統的な意匠で、中庭の数寄屋造りの茶室「思惟庵」と共に国の登録有形文化財になっている貴重な建造物だ。フロントのホールも大黒柱と丸太の梁を、金物を一切用いずに組み上げた「枠の内」という伝統的な建築技法で造られ、これからの逗留が特別なものとなることを予感させる。