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ワインもトリュフも収穫減。原因はパンデミックよりも気候変動

写真提供◎写真AC

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。 久しぶりにレストランでの食事に出かけた夜、旬のトリュフや赤ワインを楽しみながらも、そこで気がかりな話を耳にして──。12月9日発行号の巻頭言を掲載します

厨房から地球の未来が見える?

緊急事態宣言もあけ、1年以上封印されていた会食や飲酒などができるようになりました。しかし、この1年の間に、プロの料理人の作った料理を食し、プロのバーテンダーの出すお酒を飲むという生活から、自宅で食事をするという生活にすっかり馴染んでしまい、以前のように仕事仲間やクライアント、友人と外で食事をするというライフスタイルが、どうにも戻ってきません。外食を仕事の潤滑油のように考えていたのが遠い昔のようです。自分自身の中にも「コロナ前」の生活に戻ることに対して、ある種の躊躇があるのです。

それでも、コロナ以前にはよく食べに行った贔屓のお店がどんな状態なのだろうかと気になって、訪れたのは歩いていける近所のイタリアン。彼の地で修業した気のいい若手シェフが、緊急事態宣言中もルールを守りながら、ランチ時の営業やテイクアウトなどで店を開け続けたお店です。土曜日ということもあったのでしょうが、その晩は、ほぼ満席。その様子に少しほっとするとともに、少ないスタッフで調理場を円滑に差配しているシェフの姿にエールを送りたくなりました。

オーダーした数点の料理の中で最も印象的だったのは、秋の味覚のトリュフと栗のリゾット。トリュフの香りがなんとも気持ちを和ませ、赤ワインも進みます。

ところが、シェフによれば今年はこのイタリア産のトリュフは不作だそうで値が高騰気味とのことです。ワインもブドウの収穫高が昨年に比べて減少しているというのです。

アルバ市で毎年開催されるトリュフフェア  brizius / iStock

原因は気候変動。今年の春、イタリアは寒波に襲われ、また6、7月にはヒョウが降り、北東部では特に大きな被害が出ました。その後は降雨量が少なかったものの、中部、南部では逆に豪雨に見舞われたため、ブドウの成熟は、地域によりいつもより早くなったり遅くなったりと、例年とは異なる状態だったと言われています。イタリアでのワイン生産量の1位は北東部に位置するヴェネト州、その次にプーリア州、エミリア・ロマーニャ州と続きますが、エミリア・ロマーニャ州も北部に位置します。トリュフも同様です。世界三大珍味の一つと言われるトリュフの産地として有名なのはピエモンテ州のアルバ。こちらもイタリアの北部に位置します。「気候変動はパンデミックよりも重症だ」と生産者の声も聞かれます。

イタリアの州別地図 SnailStudio / iStock

フランスはイタリアよりもその影響が大きく、ワイン生産は25%から50%まで減少するとのこと(2021年イタリアワイン連合調べ)。そのため値上がりは確実です。また以前シャンパーニュ地方はフランスの中でも最北のブドウ栽培地でした。しかし、これまでシャンパーニュの最大の輸入国のひとつであり消費国でもあったイギリスでは、イングランド南部で上質のスパークリングワインが生産されるようになったのです。ここはブドウ栽培に必要な石灰質の土壌が続き、スパークリングワイン向きのブドウを栽培するのに適した土地でもあるのですが、これは明らかにブドウ栽培の北限が北上したということの証しです。

先月半ばまで開催されていたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力を追求することを採択して閉幕しましたが、目標の達成は見えていません。現実的に何をどうするのかを、早急に対処しないといけないのが、私達人間の課題ということです。もちろん個々人だけの努力ではどうにもならないような大問題ですが、好きなワインや季節の旬の食べ物を美味しく食べるためには、この地球規模の課題を考えざるをえないということだろうと思います。

イギリスで生産されている高級スパークリングワイン「ナイティンバー」/TYクリエイション

おうち時間を長い間過ごすようになり、家の中で快適に過ごすために高級なカトラリーやラグジュアリーブランドのクリスタル食器は大いに需要が高まりました。しかしそれらを使って楽しむ食材やワインが、気候変動によって、手に取りづらくなりつつあるというのは皮肉と言わざるをえません。

2021年12月9日 

お問い合わせ先

TYクリエイション tel: 03-5344-9031

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