──日本酒とはいつ出会い、関心や愛着はどのように育っていったのでしょうか。
私が日本酒に目覚めたのは2000年のことです。京都の大徳寺で精進料理をいただいた時に出会いました。酒器に注がれた状態でしたので、それがどのようなお酒なのか、知らずにいただいたのです。口にした瞬間、さまざまなインスピレーションが湧きました。今思うと、そのお酒の名前を知らなかったことはかえってよかったのでしょう。それがきっかけとなり、2019年のIWA誕生へとつながったのです。私は「ドン ペリニヨン」の時代からたびたび日本を訪れていましたが、その頃は受動的な「観客」としての立場で日本と関わっていました。次第に、より能動的な関係を築きたいと思うようになったのです。私にとって、日本酒づくりを通じて貢献することがもっとも自然な選択でした。すべての根底にあるのは、日本への愛ですね。
──28年間にわたり、シャンパンづくりに携わってこられました。日本酒をつくるなかで、ワインとどのような違いを感じましたか。
いずれもクリエイティブな道であることに違いはありません。ただ、日本酒づくりにおいては、今までワインの世界では感じられなかったことがありました。解き放たれて、自由を感じることができたのです。ワインは産地や原料の調達など、テロワールが重視されます。それはすばらしいことではありますが、制約でもある。一方、日本酒は醸造のプロセスが重要です。才能や専門知識を生かして、プロセスを変化させることができます。また、ワインにはさまざまな法規制がありますが、日本酒は米と麹(こうじ)と水さえあれば、比較的自由につくれるのです。加えて、私は「ドン ペリニヨン」にいた頃、長きにわたる伝統のなかで献身的にブランドを構築していました。日本では一から立ち上げていくことができます。私が日本で新たに会社を始めようとした時、多くの人はクレイジーだと思ったことでしょう。でも、かつてオラクル創業者のラリー・エリソンがこう話すのを聞いたことがあります。みんなから「そんなことはやらないほうがいいよ」と言われたら、それは正しい道にいるということなのです。
──富山県立山町白岩に「株式会社白岩」を設立し、隈研吾氏が設計した酒蔵で、杜氏(とうじ)を含む20人以上のチームとともに新たな日本酒を生み出されています。どのような思いで取り組まれましたか。
これまでに存在する日本酒の素晴らしい礎のもと、それをコピーするようなお酒を作ったとしたら、尊敬の念に欠けるといえるでしょう。私は今までの日本酒に深い敬意を持ちながら、これまでの日本酒造りとは異なる背景や視点を持つ者として、新しいものをつくるべき立場です。目指したのは、類を見ないものでした。まず日本の美食家に喜ばれる必要がありますし、日本酒は神事に用いられる特別な存在でもあります。さらに、世界各地のガストロノミーに対してもアピールしたいと考えました。そうして、「Assemblage(アッサンブラージュ)」という、シャンパーニュづくりで培った、異なる個性を持つ原酒やさまざまな要素を組み合わせるプロセスによって、オーケストラのように「IWA」をつくり続けています。
──7年の間に、どのような進化を遂げてきましたか。
最初の5年間は、伝統的な日本酒よりも芳醇(ほうじゅん)なものを目指していました。現在は、そこからさらに「Épure(エピュール)」、つまり余分なものを削ぎ落とし、本質を研ぎ澄ます方向へ進化しています。プロジェクトを始めた当初は、皆さんの味覚に対して存在感のある魅力的なものをまずつくろうと思いました。その次の段階として、複雑さやバランスを求めています。これは終わりのないプロジェクトで、絶えず探求し続けていくものです。
──新作「IWA 5 アッサンブラージュ7」はまさしく「Épure」の探求から生まれたそうですが、組み合わせる「Assemblage」と削ぎ落とす「Épure」をどう両立させているのでしょうか。
一見、相反するように聞こえるかもしれません。より芳醇でより強く、それでいて重さがない、流れるような味わいです。「Assemblage」によってつくられる「IWA」には柔軟性があるのです。日本酒づくりでは米を磨きますが、精米しすぎるのは避けたいと思っています。「Assemblage」によって磨きをかけていきたい。言葉では伝わりにくいかもしれませんが、「IWA 5 アッサンブラージュ7」を一口飲んでいただけたら、「こういうことか」とすぐに理解していただけると思います。

──今回の展示は、富山の作家とのコラボレーションです。富山や工芸への思いをお聞かせいただけますか。
富山の人たちは近代的な考えを持っていると思います。起業家精神もあり、私たちが日本酒づくりを始めようとした時、両手を広げて受け入れてくださいました。「IWA」は“新しいクラフト”です。杜氏である藪田眞人氏やスタッフとともにつくりあげる、誠実な本物の日本酒。革新性を持ち、地域コミュニティに貢献しようとしています。私たちはすでに富山県立山町白岩に溶け込んでいるといえるでしょう。工芸には、日本酒と関わる以前から興味を抱いていました。クラフトマンシップという点において、日本酒と同じ世界に存在していると思います。
──「IWA」は日本酒の世界にどう貢献していきますか。
まず、「Assemblage」という新たな方法を示したことが一つの貢献だと思います。また、日本以外、和食以外のレストランなどにも積極的に展開していきました。日本酒とワインの架け橋としての役割も果たしています。今後も、業界の常識を覆すような新たな提案を準備していますから、楽しみにしていてください。日本酒は地球上でもっとも素晴らしいお酒として、世界を席巻する可能性があると私は確信しています。
text: Saya Tsukahara
五感で味わう芸術─IWA 5と富山の5人の作家─
会期:2026年10月21日(水)まで
会場:和光 本店地階 アーツアンドカルチャー
住所:東京都中央区銀座4-5-11
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