東京近郊の高級別荘地、神奈川・葉山。穏やかな海と緑に恵まれた自然豊かな環境が大きな魅力だ。今春、葉山・森戸海岸の、絶景を望む立地にオープンした新たなデザインホテル「Casa CABaN HAYAMA(カーサ キャバン ハヤマ)」が話題を呼んでいる。最大の魅力はイタリアを拠点とし、世界的に活躍する女性建築家、インテリアデザイナーのパトリシア・ウルキオラによる唯一無二のインテリア。リラックスできる周辺環境を、クリエイティビティ溢(あふ)れる空間に仕上げた彼女の仕事を解説しながら、その感性に迫ってみたい。
このホテルの誕生の裏には、美を追い求めるふたりの賢者が長きにわたり深めてきた信頼関係がある。CASA CABANのオーナーは、1978年創業の日本におけるセレクトショップの草分け、トゥモローランドを設立した佐々木啓之。ニットから服づくりをスタートし、こだわりのあるファッションをライフスタイルの領域にまで広げ、現在では多くのブランドを展開するアパレルメーカーへと成長させた。

佐々木とパトリシア・ウルキオラの出会いは、1990年代初頭のパリ。まだ無名だった彼女の才能をいち早く見抜き、1992年には渋谷にオープンする同社のブランド、デ・プレのインテリアデザイナーに抜擢(ばってき)した。その後も親交を深めるなか、2017年の夏にパトリシアが来日し、佐々木の提案で葉山での再会を果たす。青い海と空の向こうに望む富士山、美しい夕景……。パトリシアは瞬く間にこの地を気に入ったという。そこからトゥモローランドが構想・企画し、葉山にインスパイアされた彼女と国を越えた綿密なワークショップを重ねて具現化し、「Casa CABaN HAYAMA」が誕生した。

数々の国際的な賞の受賞歴があり、ニューヨーク近代美術館ほかで作品の一部が展示されるなど、世界有数の建築家・インテリアデザイナーであるパトリシア・ウルキオラ。ミラノのカーサ・ブレラ 、ポルトガルのアンダーズ リスボンなど、これまで多くのホテルやブティックを手掛けているが、企画、設計、建築、内装、家具のすべてを担うのはアジアでは初めて。

海外のホテルを訪れたような、非日常へと誘う全14室のスモールラグジュアリーなホテル。ここではホテルステイとしての楽しみはもちろんのこと、パトリシアならではのアートやデザインの演出が、日常のインテリア術のヒントにもなり得る。ここからは「Casa CABaN HAYAMA」での遊び心に満ちた彼女のセンスを、5つの角度から紹介していこう。

パトリシアが掲げたデザインコンセプトは「Weaving(編み込んでいく)」。ニットからスタートしたトゥモローランドへのオマージュを込めて、このホテルのアイコンに。リサイクル素材を格子パターンに仕上げたファサードパネルが、その象徴だ。外観を印象的に彩ると同時に、ホテル内では窓越しの陰影が海辺での滞在の高揚感を高めてくれる。空間と時間、ここに漂う見えない何かをも編み込んでいく。テーマを設けることで、物語のある世界観が生まれている。


エクレクティックなミックススタイルも、パトリシアが得意とするところ。ここでは、リスペクトする日本の感性と、ヨーロッパのデザインを巧みに折衷した。「まるで海から引き上げてきたようなイメージ」と彼女が語るのは、ターコイズカラーのグラデーションが美しいラウンジとダイニングの柱。藍染めを表現した陶磁器製で、イタリアで製作された。またエントランスの墨流しのタイルと、日本の羽織に着想を得たカッシーナのキャビネットも絶妙の融合を見せている。


パブリックスペースでも部屋でも、どこへ視線を向けても色で満たされている。だからといってノイジーではなく、葉山の自然に調和しながら一定のトーンで響き合い、空間を柔らかく包み込む。そのカラーパレットはラグジュアリーなモードで使われる、繊細でモダンなニュアンスカラー。ルーフトップテラスに配したソファやテーブルがまとったバーガンディが、葉山の海と空のブルーに馴染(なじ)み、あたかもヨーロッパ映画のワンシーンを思わせる。


コージーでありながら、不思議と朴訥(ぼくとつ)とした印象にならないのは、パトリシアのテクスチャーに対する眼差しにある。館内には彼女が手掛けるファニチャーが各所に飾られているが、いずれもどこか違和感のある素材が魅力。例えば、世界最高峰のガラス家具ブランド、グラスイタリアのテーブルは、再生ガラス由来の粒をポリマーと混ぜ合わせた、冷たく煌(きら)めきのある質感。一方、イタリア、チメントの家具は鉱物とセメントを掛け合わせたザラつきのあるマット感。触れてみたくなるような、コンテンポラリーな新素材をひとさじ。その革新性がモダンさを生む。


パトリシアによるアートも、このホテルの重要なエッセンス。さまざまなマテリアルで表現されているが、特に注目したいのはタペストリーやラグなど布で表現されたアート。モチーフとなっているのは果物や花、そして織物。ユニークに抽象化され、時に立体的な表現で空間に温かみを添えている。「国境のない理想郷を表現しています」とパトリシア。こういったテキスタイルを飾る方法は、私たちの身近な空間のインテリアにも参考になるアイデアだ。


心揺さぶるデザインを浴びるためにあるホテル。宿泊せずとも、食事だけでも空間の魅力を体験できる。メインダイニングは、トスカーナで経験を積んだシェフによるイタリア料理。葉山のテロワールを生かした一皿は、プレゼンテーションのカラーリングも美しく、香りの使い方が心をほどく。また日本料理の店も設けており、長めの滞在でも飽きることはない。Casa、それは家。一度訪れれば、必ずまた帰ってきたくなる特別な居心地の良さがある。

edit & text: Hiroko Koizumi
Casa CABaN HAYAMA
神奈川県三浦郡葉山町堀内955-2
tel: 046-895-0228(9:00〜21:00)
公式サイト https://casacaban-hayama.com
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