7月30日(木)、マリ・クレールとフランスのシルバーウェアメゾン「クリストフル」による特別イベント「le salon de marie claire ~パリジェンヌのおもてなしの美学~」が、クリストフル青山本店で開催された。銀器が映す豊かな暮らしと、パリのカフェに息づく自由なエスプリに触れた、夏の夕べをリポートする。
1830年にパリで創業したクリストフルは、銀食器やカトラリーを中心に、テーブルウェア、ホームアクセサリー、ジュエリーを手がけるメゾン。「卓上の芸術品」と称される品々は、王侯貴族の食卓から世界のホテル、レストランまで、時代を超えて愛されている。
クリストフル青山本店会場となったクリストフル青山本店には約20名の読者が集まり、ウェルカムドリンクの「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」を片手に、夏らしいテーブルセッティングを楽しんだ。
クリストフル青山本店店内
会場内には、南仏の陽光を思わせる鮮やかなイエローのプレートを主役にしたテーブルコーディネートが登場。ミントグリーンのナプキンと、イエローやホワイト、ブルーの花々が涼やかな彩りを添え、白いリネンの上では磨き上げられた銀器が光を集めてきらめく。卵形のケースからカトラリーが現れる「ムード パーティー」も、ゲストの視線を集めた。色を楽しみながら上質さをさりげなく忍ばせる、まさにレクチャーを体現した夏の食卓だ。
イエローとミントグリーンが涼やかな、当日のテーブルコーディネート
イベントはトークセッションとアペロを楽しむ懇親会が行われ、トークセッションでは南青山のカフェLA&LE(ラ・エ・ル)総支配人の山下哲也さん、クリストフルジャパンのシニアブランドマネージャー・川島千穂さん、marie claireの田居克人が登壇。トークとアペロを通して、日仏のおもてなし文化をひもといた。
トークセッションは2パートに分かれ、まずは川島さんがクリストフルの歴史と「パリジェンヌのおもてなしの美学」をレクチャー。創業者シャルル・クリストフルが1842年に金銀の電気メッキ技術の特許を取得して以来、銀細工の可能性を切り開いてきたクリストフル。ナポレオン3世のお抱え金細工師として公式晩餐(ばんさん)会の食卓を彩り、オペラ・ガルニエの装飾にもその技術を提供。フランスの歴史とともに発展してきた軌跡が紹介された。
クリストフルジャパン シニアブランドマネージャー・川島千穂さん
メゾンが目指すのは「シルバーのある豊かな暮らし」。白く澄んだ銀の輝きはインテリアに光を呼び込み、日常へアートを取り入れて心豊かに生きる、フランスの「アール・ド・ヴィーヴル」を象徴する。今回のテーマでもある「おもてなし」について、川島さんが挙げたおもてなしの鍵は、会話を楽しむこと、気取らずさりげない上質さを演出すること、工夫を凝らすこと、心地よい時間と空間を分かち合うこと、色やペアリングを楽しむこと。
「フランスの食卓でもっとも大切なのは、会話を楽しむことです」と川島さん。器やカトラリーを完璧にそろえること以上に、ゲストがくつろぎ、言葉を交わせる空気をつくることが先にあるという。また、川島さんがクリストフルが主催するマナー教室で伝えているのは、「フランス流だからこそ、正解は一つではありません」ということだという。「基本を知ったうえで遊び、自分らしい工夫を加える。そこがアートであり、フランスらしさです」。銀器を特別な日のためにしまい込まず、日々の食卓で自由に楽しむことを勧めた。
なかでも印象的だったのは、使い込んだものを大切に手入れし、ゲストと共有するという考え方だ。新品を用意することだけが上質なのではない。傷さえも家族の時間や記憶を刻む味わいとなるからこそ、フランスでは銀器が日常の食卓で使い継がれている。基本を知りながら、空間や相手に合わせて自由に遊ぶ。その発想にこそ、フランス流のおもてなしの本質がある。
続いて川島さん、山下さん、田居によるトークセッションへ。山下さんがカフェ文化に触れたのは、1994年、大学時代に表参道のカフェでアルバイトを始めたことがきっかけ。パリで働くカフェの総支配人との出会いを機に本場を志し、2002年に渡仏。翌年からパリの名門カフェ・ド・フロールで、唯一の日本人ギャルソンとして20年以上腕を磨いた。
<左から>クリストフルジャパン シニアブランドマネージャー・川島千穂さん、LA&LE総支配人・山下哲也さん、marie claire・田居克人
カフェ・ド・フロールは、サルトルやボーヴォワールをはじめ、文化人やファッション関係者が集った場所。山下さんは「ウェイターとギャルソンはまったく違う」と話す。その店の文化を理解し、自らも担う存在であることが求められるからだ。田居も、著名人への取材で同店を使った思い出を振り返り、編集者にとっても“鉄板”の場所だったと語った。
山下さんが象徴的なエピソードとして挙げたのが、ボーヴォワールが朝から晩まで一席を占めていたという話。「カフェのオーナーからすれば最悪の客かもしれない。でも、それを許す懐の深さがフロールにはあり、文化をつくってきたのだと思います」。田居も、「パリのカフェは、コーヒー一杯でも長くいられる空間をつくってきた。だから人が集い、言葉や思想が生まれたのでは」と応じた。店が客の過ごし方を決めすぎず、一人ひとりに自由を委ねること。それもまた、フランス流のおもてなしなのだろう。
山下さんが帰国後、2026年春に南青山で開業したカフェ「LA&LE」では、あえてBGMを流していない。客の会話、カトラリー、エスプレッソマシン、ギャルソンの声を店の音楽にしたいからだという。「ひとりでも大勢でも、食事でも一杯のコーヒーでもいい。座る場所も自分で選べる」。そんな自由を受け止める懐の深さが人を結び、やがて文化を育てていく。
話題は、自宅へ招くことを何よりのおもてなしとするフランスの習慣にも。山下さんは、アパルトマンの住人が中庭で食卓を囲む「ラ・フェット・デ・ヴォワザン」の思い出を紹介。会話と時間を惜しみなく分かち合うことに、暮らしを楽しむフランス人の知恵が息づいている。
トーク終了後は、「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」のキール・ロワイヤルで乾杯し、懇親会がスタート。アラン・デュカスグループのレストランで経験を積み、現在は独立して活動するシェフパティシエ・波多江篤さんが、この日のためのフィンガーフードを手がけた。
波多江篤さんが手がけた芸術的なフィンガーフード
クリストフルのスプーンに美しく盛りつけた一口サイズのサーモンマリネ、イチジク味噌(みそ)を合わせたパニス、フランボワーズの酸味を利かせた和牛のフィレ・ド・ブフ。銀器の上で料理が小さな作品のように輝き、目にも舌にも楽しいマリアージュとなった。

会場のあちらこちらでは、山下さんを囲んでパリのカフェの思い出を語る姿や、川島さんに銀器の歴史やケア方法を尋ねる姿が。シャルロット・シェネがデザインした新作「カルーセル」の、バングルを思わせる有機的なカーブにも注目が集まった。「フランスに行った気分になった」「自宅の食卓もクリストフルで豊かに飾りたい」といった声も聞かれ、参加者それぞれが暮らしに取り入れたいヒントを見つけたよう。
会場で配られたギフトセット
帰りには、『marie claire』7月号、新作「マルメゾン・リヴィエラ」をイメージしたスカーフ、焼き菓子の詰め合わせ、LA&LEのショップカードをセットにしたギフトも。銀器の輝き、おいしい料理、そして尽きない会話。心地よい時間を分かち合うことこそが、何よりのおもてなし──そんな余韻とともに、夏のサロンは幕を閉じた。
photo:Tomoko Hagimoto text: Azu Satoh
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