ディオールの日本における新たな拠点として5月21日にオープンした「ハウス オブ ディオール 心斎橋」。その最上階にあるのが、レストラン「ムッシュ ディオール 大阪」だ。女性シェフとして、現在、世界で最も多くのミシュランの星を獲得しているアンヌ=ソフィー・ピックさんが考え出したメニューは、ディオールの歴史やコードと彼女の世界観や料理が融合し、五感を呼び覚ます。料理に込めた思いを語ってもらった。
創設者のクリスチャン・ディオールは美食家としても知られている。彼が愛した料理のレシピをまとめた本『手縫いの料理ームッシュ ディオールの食卓より』の中に、彼のこんな言葉が登場する。
「料理における材料は、クチュールの素材と同様に高貴なものである。この職業に従事していて素晴らしいと思うのは、手と精神の協力によって一つの作品を創り上げてゆくことができるということであり、その点では料理と同じだ」
アンヌ=ソフィー・ピックさんも「手と精神の協力」によって創り上げていく女性のシェフだ。
©LAORA QUEYRAS ──日本では既に東京・銀座と代官山、大阪・関西国際空港の「カフェ ディオール」の料理を担当していますが、「ハウス オブ ディオール 心斎橋」はどう違うのでしょう。3店はカフェであり、カジュアルです。サレ(塩味の料理)はありますが、ケーキとお茶が中心で、サロン・ド・テ的な存在です。今回は本格的な料理を提供するレストランで、コースもアラカルトもあります。
──日本が大好きということですが。21歳の時に初めて来た日から、私は日本と恋に落ちました。今もその思いをずっと抱き続けています。日本の文化が好きで、自分の料理にどう取り入れていくかを自問自答しました。
今回、料理を担当するため、日本に浸り、日本文化への知識を深めようと、今年初めに日本に1週間滞在しました。魚市場などで食材をとにかく見て回って探すツアーのようでした。おかげで日本の魚に詳しくなるなど、自分の世界を一層広げることができました。
──「ムッシュ ディオール 大阪」のための料理を生み出す上で心がけたことは。ディオールとのつながりを料理にしなければならないという制約がありました。それは制約というより、むしろ楽しくするための条件とも言えるでしょう。私が思うままに料理を作らせてもらいつつ、ディオールの世界をどう私の料理の世界に落とし込むかを考えました。
「レ ベルランゴ レオパード」 アンヌ=ソフィー・ピックのシグネチャーディッシュで、コンテチーズを詰めたパスタ「ベルランゴ」にレパード柄をプリント。ディオールのミューズ、ミッツア・ブリカールへのオマージュ ©LARA GILIBERTO
普通のレストランではまず味のことを考え、見た目は後になります。でも、ディオールの名を冠したレストランとなるとアプローチが異なります。味わいはもちろんのこと、ビジュアル(見た目)はとても重要な要素です。
まず初めに、パリにあるディオールのアーカイブを訪れました。色や形を参考にしようと思って。数々の作品からディオールの歴史やコードなどに触れ、インスピレーションを得ることができました。
「ラ トワール ブランシュ」 ホタテ貝を繊細にアレンジ。布地のようなベールは、アトリエの「トワル」を彷彿(ほうふつ)とさせる ©LARA GILIBERTO
そのひとつとして作りたかったのが、真っ白な料理です。オートクチュールの服を作るときには、初めに白のトワルでパターンを作ります。このお店にも飾られていますよね。
「ル ミルフィーユ ブラン」 香水「ミス・ディオール」に使われた千鳥格子をあしらった。バニラとジャスミンの香りが漂う アンヌ=ソフィー・ピックのシグネチャーディッシュをディオールのために再解釈したもの ©LARA GILIBERTO
また、ムッシュ ディオールは祖父(ミシュランの三つ星シェフ、アンドレ・ピック)と同世代を生き、祖父の時代の料理が好きでした。その祖父がよく作り、私も学校で学んだ伝統的な「サバイヨンソース」も取り入れようと考えたのです。ただ、今の時代に合ったものとして、より軽く、深みのある味に仕上げました。
「レトワール ドゥ メール」 ヒトデは、クリスチャン・ディオールが愛したグランヴィルのビーチを彷彿とさせる ©LARA GILIBERTO
前菜の「レトワール ドゥ メール」には、ウニとそば茶の組み合わせを取り入れました。ウニは私が個人的にも大好きな食材で、中でも日本のウニは特別。すばらしいものが手に入ります。そば茶は初めて日本に来た時に出会い、香りが好きになりました。ローストしたそば茶の香りをウニに染みこませて、それと柑橘(かんきつ)を組み合わせ、アニスやディルなどの香りを加えています。
「ル カレ」 直火で焼いたサバの上には、職人の手仕事のようにキャビアの粒を丁寧にちりばめた ©LARA GILIBERTO
「ル カレ」は日本とフランスの架け橋になるような料理の第一歩とも言えるものです。ソースにこだわっていて、フランス的なソースでありながら、日本の出汁(だし)と抹茶バターを使うという、日本の食材を生かした味わいです。
──料理哲学を教えてください。なるべく自然界に近いところにいたいと思っています。私が求めるものは新鮮さと味わいの奥深さです。そのため、たくさんの食材を使います。苦み、酸味、塩味などがいろんなところで感じられるようにしています。見えないところでの準備も奥深さという世界を広げ、それがポエティックな世界を作り上げていくのです。
©LAORA QUEYRAS
──アンヌ=ソフィー・ピックさんの料理は食べていくうちに、いろいろな香りに出会います。香りへのこだわりが感じられます。私は香りの世界に魅了されています。フランス料理は火を通す、ローストすることが多いですが、ちょっとした香りづけが料理に変化をもたらします。
パリに12年前にレストランをオープンした時、実はプレッシャーで押しつぶされそうでした。「ここは首都のパリだし、私は地方出身者だから、強いコンセプトを打ち出さなければ」と思っていたのです。そこで、調香師と相談し、お客さまにいくつかの香水をかいでもらい、好みの香りにつながるメイン料理を選んでもらいました。ただ、ちょっと斬新すぎて、軌道には乗りませんでしたけどね。
──料理人の世界はまだまだ女性が少ないように思います。料理に男らしさ、女らしさはあると思いますか。私と同じような教育を受けたミシュランの三つ星シェフと厨房(ちゅうぼう)に立つことがあります。料理を味わったときにおいしいと思いつつ、「私だったらこういうソースにはしない」と感じることがあります。感じるエネルギーが違うんです。一方で、男性の作った料理にフェミニンさを感じさせるものもあります。つまり性差というより、個性だと思います。女性だからこその料理で男性にインスピレーションを与えることもある。影響し合って、料理が進化していくことを誇りに思います。
──アンヌ=ソフィー・ピックさんは多くの女性たちがあこがれる存在です。頑張る女性たちにメッセージをお願いします。自身の本能や直感を信じてほしい。自分の目指す道を失わないためには歩み続けなければいけません。たとえ困難な道であっても喜びや楽しみを見いだすことができるのです。
──ところで、自宅で料理はしますか。日曜日は店が休業日なので、日曜日のレシピがあります。それは、エストラゴン風味のチキン。いつも長めに焼いて、カリカリに。そのほうがいい肉汁が出ます。あとはオムレツを作るのも大好きです。トリュフを入れて。庭で野菜やハーブを育てているので、香りを楽しみながら料理を作ります。
text: Izumi Miyachi(読売新聞記者)
「
ムッシュ ディオール 大阪」
住所:大阪市中央区心斎橋筋1-9-17
営業時間:ランチ 11:30-15:00 ディナー 18:00-22:30
定休日:月曜日、火曜日
公式サイト:
https://www.dior.com/fashion/stores/ja_jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC/osaka/1-9-17-shinsaibashisuji予約リンク:
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