オーストラリアの新しい美食デスティネーションとして、いま世界の注目を集めているのがタスマニアだ。この10年で自然に引かれた移住者が増え、志の高い生産者やシェフたちが次々と根を張り、わざわざ訪れる価値のある食の目的地が続々生まれているのだ。シドニーやメルボルンからすこし足を伸ばして訪れた3泊4日を紹介する。
かつては林業や鉱業の島として知られていたタスマニア。ホバートへは、シドニーから飛行機で2時間弱という近さもあり、近年は自然に引かれた移住者が増加。志の高い生産者や料理人たちが次々と根を下ろした。2011年の現代アート美術館「MONA」の開業も追い風となり、この10年で世界有数の美食デスティネーションへと変貌を遂げている。
さらに、シドニーやアデレードのシェフたちに“今度タスマニアに行く”というたびに皆から一様に「タスマニア! いいなあ」と、羨望のまなざしをむけられたことも、期待感をあおった。世界中のおいしいものを知る料理人たちが羨ましがる旅先というのは、そう多くない。その理由を知るべく、世界の料理人たちが憧れる島へ飛んだ。
宿泊したのは、歴史的建築をリノベーションした“ヘリテージ棟”の部屋。天井が高く、19世紀の砂岩壁と暖炉の跡が残る空間は、ホバートがたどってきた歴史の片鱗(へんりん)を感じさせる良い雰囲気だ。
その夜は、2026年に「Time Out Australia」の読者投票で「タスマニアのお気に入りレストランNo.1」に選ばれた、ホテル内のイタリアンレストラン「Peppina」で食事をすることにした。
彼がタスマニアで料理をする理由は、ひとえに「タスマニアの素晴らしい生産者の食材を料理したいから」だと話す。90頭しか飼育していない山羊農家のチーズ、Huon Valley産のトマト、地元漁師が直接持ち込む魚——自身が直接関係を構築してきた“顔が見える生産者”の食材の魅力を、薪火(まきび)どを使い引き出していく。
ソムリエが注いでくれたタスマニアのスパークリングワインは、冷涼な気候と海の影響で酸が際立ってきれいだった。しばしばブルゴーニュ的と評されるタスマニアのワインは、とてもエレガント。この出会いがきっかけで、滞在中はタスマニア産のワインだけ飲むようになった。
朝8時半から19世紀の風情を残す砂岩倉庫群の前に300以上の露店が並び、生産者たちが直接チーズやパン、蜂蜜、ワインを販売している。食品だけでなく、林業の街らしくタスマニアオークなどをつかった木工製品やキッチンツール、オーガニックのアロマオイルなどの小さな店も楽しい。土曜日にホバートにいるならぜひ訪ねたい場所だ。
午後はフェリーでダーウェント川を渡り、タスマニアが誇る「MONA」へ向かう。ここは、ギャンブラーであり実業家でもあるデビッド・ウォルシュが、自ら所有するワイナリー「Moorilla Estate」のブドウ畑の地下に造った現代アート美術館だ。
シェフは2009年にシドニーから移住してきたヴィンス・トリム。彼の作る現代アートに呼応した美しい料理は、発酵などの技術を生かしながらさまざまな食材の味が緻密に重なり、完成度が高い。
すみずみにクスッと笑えるようなウイットを感じる料理がある一方、環境汚染の引き金となっている養殖サーモンは使わない、家畜ではなく、増えてしまっているワラビーや鹿などのゲームミート(野生肉)を使うなど、環境問題や持続可能性にもしっかり向き合っている。
単においしいだけではなく、「自然と食と人はどう向き合うべきか」というメッセージも内包しているのだ。
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