Day 3 アデレードヒルズにポツンとたたずむ隠れた名店「Thelma Piccadilly」
3日目のランチは、ホテルから車で5分の「Thelma Piccadilly(テルマ・ピカデリー)」へ。2024年にオープンした18席の小さなレストランだ。
気をつけないと、見過ごしてしまいそうな何気ないファザード
シェフのトム・キャンベルはデンマークの「Noma」、ロンドンのミシュラン星付き店などで腕を磨いた人物だ。
個人の家に招かれたような、コージーな空間。オープンキッチンでは、トム・キャンベルが一人で料理を作る
トムの料理は、その日に届く近隣の小規模農家、漁師、生産者の食材から生まれる。オーストラリア屈指の港町、ポート・リンカーンで水揚げされたピカピカのサーディンは、シェフの思いを象徴する一品だ。
この日のサーディンは、パンの上に乗せたブルスケッタスタイル

とれたてのレタスと豚耳を合わせたサラダ
「ぜひ食べて!」とすすめられた豚耳のサラダは驚くほどシンプルだが、クセになる美味しさ。薄くスライスした豚耳を、スパイスやたまねぎ、にんじんとブレゼ(少量の水分で蒸し煮)し、ディルやフレッシュな葉野菜と合わせている。臭みがない豚耳は、下処理の丁寧さを物語っている。自家製チーズとガルム(魚醤)がアクセントとなり、食べ飽きない。
近所の農家から届いた味も香りも違う数種のトマトを重ねてタルトに。自然の味のグラデーションが美味
「ガルムもトマト味噌もみんな自家製だよ」とトムが目を輝かせて教えてくれる。ちなみにオーストラリアのシェフたちは発酵したペーストをすべて“MISO”と呼んでいた。日本語が、この地の食文化に根付いているのがちょっと嬉しい。
アデレードヒルズの美しい森の中にある小さな一軒家には、この日もたくさん町からランチに訪れていた。ここは、アデレードヒルズのワイナリー巡りの際に覚えておきたい一軒である。
夜はドレスアップして、「Hardy's Verandah」へ
ランチの後は、ホテルに戻って敷地内の地下水を利用した温水プール&ジャクジーに浸かりながら、ゆっくり過ごす。こんな素敵な宿に泊まりながら急ぐのはもったいない。
温水プールエリアには、ジャクジーとサウナもある。パラソルとデッキチェアもあり。使う場合はロビーで予約を
ディナーはすぐ隣のロッジ「マウント・ロフティ・ハウス」内にある「Hardy's Verandah Restaurant」へ。オーストラリアを代表するグルメガイド「オーストラリア・グッドフード・ガイド」で5年連続最高評価の3シェフハットを獲得しているファインダイニングだ。
1852 年、避暑のために建てられた邸宅を起源に持つロッジ「マウント・ロフティ・ハウス」。「Hardy's Verandah Restaurant」はこのロッジのメインレストラン
これまでも評判の高いレストランだったが、去年アレッサンドロ・マンジオーネがシェフとなり、料理を刷新。現在はイタリアンをベースに、アボリジニが食べていた“ブッシュフード”と発酵の技術を組み合わせた“オーストラリア・モダン・キュイジーヌ”でゲストを楽しませる。
ダイニングからの絶景は忘れられない
例えば、ムール貝の料理は地元のイチゴと合わせ、アボリジニの伝統食グリーンアント(緑のアリ)と自家製味噌(みそ)を隠し味に。トスカーナの郷土料理グヌーディ(ラビオリの中身を丸めたような料理)はカンガルーの肉とオーストラリアに自生するアカシア科の木、ワトルの種を醗酵(はっこう)させた味噌で仕立てている。
ムール貝とストロベリー、炭火焼きコーンを合わせた料理。コーンはレモンバーベナで香りづけ。グリーンアントの酸味も隠し味

カンガルーのグヌーディ。カンガルーは厳しい基準をクリアした農場のいい環境で育てられているものを使用
アデレードヒルズとバロッサバレーの生産者のワインにフォーカスしたペアリングもおすすめ。ワイナリー巡りの前に訪れて、ソムリエと話をして、訪れるワイナリーを相談しても面白いだろう。
地下にあるワインセラー。半分が南オーストラリア産。半分がフランス、イタリアなどのワインをそろえている
Day 4 最終日は人気ワイナリー「Shaw + Smith」へ
さて、素晴らしきアデレードヒルズも最終日だ。ホテルのチェックアウト時に思いも寄らないサプライズが。なんと木の上にコアラを発見! ユーカリの枝にしがみついて寝ている姿はぬいぐるみのようだ。そういえば、マウント・ロフティはコアラの生息地でもあったと思い出す。野生のコアラは地元の人でもあまり見かけないと聞いて、なおさらうれしい。
このユーカリの木がお気に入りでよく寝ているのだそう。ホテルのスタッフは「チャーリー」と名付けて見守っている
コアラに別れを告げ、向かったのはバルハナーの丘に建つワイナリー「Shaw + Smith(ショウ アンド スミス)」だ。
「Shaw + Smith」の畑

取材時は収穫前のブドウが実っていた
この日、醸造担当のウィルが畑とワイナリーを案内してくれた。「アデレードヒルズで本格的なブドウ栽培が始まったのは1970年代。1980年に誕生したこのワイナリーは比較的新しいため、伝統に縛られず新しい造り方に挑戦できるんです。夏は40度を超え、夜は一気に冷え込む。気候や赤い土壌がワインの骨格になっています」。
また、環境への配慮も徹底している。畑には農薬や除草剤は使わず、雨水を利用し、太陽光発電も取り入れている。小川沿いでは、水を自然に濾過するために多様な植物を植えるプロジェクトも行われていた。カンガルーも姿を見せるという畑は、一つの生態系として守られている。
ワイナリーを案内してくれたウィル
見学をした後、テイスティングルームにて、6種類のワインを味わった。印象に残ったのは、やはり、ブランドを象徴する1990年から造り続けるソーヴィニヨン・ブランだ。同じ南半球のニュージーランドのものとは異なり、グレープフルーツを思わせる透明感と冷涼な産地らしいすっきりとした酸に魅了された。
この日のテイスティング。M3 Chardonnay 、Sauvignon Blanc、 Rieslingなど6種類。チーズなどとともに楽しめる
1週間ステイしても飽きない場所
アデレードの多様で洗練されたダイニングエクスペリエンスに、すっかり魅了されてしまった。
上質なワイン、洗練された食に加え、人々がとてもオープンマインドだというところも旅人にはうれしい。
多くのワイナリーはセラードアを開き、試飲や見学を歓迎してくれる。週末には家族連れがワイナリーの芝生でピクニックをしている姿もめずらしくない。今回は3泊4日で楽しむ提案をしたが、本来は1週間以上はステイするのがおすすめだ。アデレードの自然を感じ、おいしい食とワインにどっぷり浸るバカンスは、想像以上に素晴らしいものになると保証する。
text & photos: Misa Yamaji
【取材した店&ホテル】
Adelaide Central Market:
adelaidecentralmarket.com.auArkhé:
arkhe.com.auPenfolds Magill Estate:
penfolds.comSequoia Lodge:
sequoialodge.com.auThelma Piccadilly:
thelmapiccadilly.com.auHardy's Verandah Restaurant:
mtloftyhouse.com.auShaw + Smith:
shawandsmith.com協力/
オーストラリア政府観光局 Profile
山路美佐(やまじ・みさ)
食と旅ジャンルの編集者。大学卒業後は総合商社に入社。その後出版社へ転職し、婦人誌ほかで食・旅の編集を担当。グルメ検索サイト「ヒトサラ」副編集長を経て、フリーの食と旅の編集者に。月の半分は国内外を飛び回り、最前線で働くシェフたちやホテル、生産者、日本の地方の魅力を取材。編集本に『広東名菜赤坂璃宮譚彦彬の味』(世界文化社刊)。
INSTAGRAMでは、日々の食と旅の出合いをつづっている。