南オーストラリア州の州都アデレードが最近美食の街として注目を集めている。日本ではあまりなじみがないかもしれないが、評価の高いワインの産地であることに加え、世界のトップレストランで経験を積んだシェフたちが続々と店をオープンしているのだ。また、都市の刺激と大自然がギュッと凝縮した地形、多様な移民文化が混じり合う独特の食文化も面白い。そんな、美食のネクストデスティネーションを3泊4日で旅した。
アデレードが自由入植者による計画都市として誕生したのは1836年のこと。流刑植民地だったシドニーとは異なり、ドイツ人、イタリア人、ポーランド人、近年ではアラブ諸国やアフリカからの人々まで、多様な文化的背景を持つ人々を受け入れてきた。この多文化の蓄積が、アデレードの地域の食文化を形作っている。その背景を理解したいなら、まず「アデレード・セントラル・マーケット」へ直行するのが正解だ。
というのも、地元の人で賑わう、南半球最大規模の屋内生鮮市場を訪れれば、この街の食文化の縮図が見て取れる。ドイツ式のソーセージ専門店、コロンビアのトルティーヤの屋台、韓国のチヂミ屋にフランスのチーズショップなど、実に多種多様。さらには、1880年代から続くキャンディー専門店や「カンガルー島ストア」など、この地ならではの専門店もあるのが面白い。

まず心をつかまれたのは、前菜のオイスターに、西オーストラリア・アブロホス諸島産のホタテムースのトースト。トーストの香ばしさに濃いホタテの甘みが口の中で混じり合い、オーストラリアの魚介の鮮度と質の良さに思わず唸る。
面白かったのは北京ダックのワンタン。ダックの身を入れたワンタンを鴨の骨からとった澄んだスープで仕上げ、18時間かけてムール貝のだしで火入れした薄切りの鮑を添えている。ステーキ店で北京ダック?と疑問に思うが、ここはオーストラリア。以前、オーストラリア人シェフに「オーストラリア料理とは?」という質問をしたところ、「一言で回答できないけれど、強いて言えば欧風のスタイルにアジアのエッセンスが自然に混じっているということかな」と教えてくれたことを思い出し、腑(ふ)に落ちた。
クライマックスは、骨付きのストリップロインのステーキ。牛肉は、ライムストーンコーストの腕利きの畜産家「Mayura Station」が育てるフルブラッド(100%純血)和牛だ。約20日間熟成させ、薪火でガリっと焼き上げている。
現在、ペンフォールズワイナリーのワインは、バロッサ・ヴァレーの最新設備の醸造所でほぼ造られているが、ここ、マギルエステートは創業当時の開放型コンクリート発酵槽を用いた原始的な醸造が今も行われている。

このホテルの魅力は、なんといっても周囲の自然に溶け込むように設計された建築にあるだろう。客室はベッドルームと、そこから一段下がったラウンジで構成され、天窓や大きな窓枠がピカデリーバレーの丘陵地帯を一面の絵画のように切り取っている。壁面の石造りの暖炉の炎のゆらめきが心地よい。
細部にわたる心地よさに、部屋から一歩も出たくなくなってしまう。ルームサービスを頼み、静けさの中でぐっすり眠った。
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