山梨県の中央葡萄酒の醸造責任者として、豊かな自然の中で日々ブドウの栽培と醸造に向き合い、「甲州」の名を世界に広める三澤彩奈さん。今回は、カンヌで開催された国際交流の場「JAPANESE NIGHT」を通して映画とワインとのつながりについてつづります。
5月15日(現地時間)、カンヌのHotel MartinezにてJAPANESE NIGHT in Cannes 2026が開催されました。カンヌ国際映画祭真ただ中のことでした。
このイベントは、俳優・プロデューサーのMEGUMIさんがファウンダーとなり、映画をはじめとする多様な産業分野における国際的な文化交流を促進するため、2024年にスタートしました。昨年までのJAPAN NIGHTから、本年はJAPANESE NIGHTへ名称を変更し、日本の映画界と文化の価値をより具体的な魅力として伝えていくために、「人・物・事」に焦点を当てています。
ファウンダーのMEGUMIさんとJAPANESE NIGHT会場には、日本映画界を代表する監督・俳優陣をはじめ、世界各国の映画関係者、メディア、各界のリーダーなど1000人以上が来場し、大変なにぎわいを見せていました。入り口では、JAPANESE NIGHTの入場を待つ人々があふれ、長い行列ができていました。今年は、カンヌ国際映画祭の見本市で日本がCountry of Honor(特別招待国)に選ばれたこともあり、日本への注目も高まっていたそうです。
会場の様子JAPANESE NIGHTが始まると、ウディネ・ファーイースト映画祭で最高賞と、特別観客賞をダブル受賞した映画『FUJIKO』の木村太一監督らがスピーカーとして登壇しました。また、イベント後半には、日本の伝統と現代カルチャーが合わさったステージが繰り広げられ、会場を盛り上げていました。
私自身は、イタリアで女性醸造家たちが集まるミーティングに出席したその足で、JAPANESE NIGHTに参加させていただきました。一昨年、MEGUMIさんプロデュース、木村太一監督のショートムービー「AKOI」に出演させていただいたご縁で、今回、日本ワインとワイン産地・山梨についてスピーチをするお時間もいただきました。
プレゼンテーションショートムービー「AKOI」は、農業に携わる人たちが使う「足肥(あこい)」という言葉に由来しています。農夫や農婦が畑に足しげく通うことを意味するのですが、ブドウ畑で木を観察していると様々な発見があります。その小さな宝さがしの積み重ねが、風土を生かした私自身のワイン造りにつながっていると感じています。
「AKOI」では、映画「いま、会いにゆきます」(土井裕泰監督・2004年)のワンシーンともなった北杜市明野町のブドウ畑を舞台に、「三澤甲州」が創られていく様子を追っていただいています。「三澤甲州」は、山をめで、風を感じ、鳥の声を聴き、植物の香りを嗅ぎ、五感を研ぎ澄まし、風土の力を信じて、考え抜いて生まれたワインです。1000年の歴史を持つ甲州と、日本人の自然観、ものづくりの精神が融合されています。JAPANESE NIGHTでも提供させていただきました。
三澤甲州JAPANESE NIGHTは、ただ日本を発信することにとどまらない、お互いを尊重し合う国際交流の場でもあります。日本映画をはじめとして、様々な分野の表現者、造り手の方々に焦点が当てられていることもJAPANESE NIGHTを特別な夜にしていると感じました。クリエイティビティーが刺激される夜、貴重な経験をさせていただく中で、日本のものづくりや美しい精神性を表現できるような醸造家でありたいと改めて考えました。
JAPANESE NIGHT最後に、おすすめのワイン映画を2本紹介させていただきたいと思います。どちらも、フランスのブルゴーニュ地方を題材とする映画です。
「おかえり、ブルゴーニュへ(原題:Ce qui nous lie)」は、私がフランス留学時代、若者たちから絶大な人気を誇っていたセドリック・クラピッシュ監督の作品です。俳優で、実際に醸造家でもあるジャン・マルク・ルーロ氏も出演し、ブドウ栽培とワイン醸造の細やかな描写も見事に再現されています。家族経営ワイナリーの大きな課題でもある継承もありのままに描かれています。
もう一作品は、「ブルゴーニュで会いましょう(原題:Premiers Crus)」です。著名なワイン評論家が地位もプライベートも捨て、実家のワイナリーに戻り、ワイン造りを始めていくストーリーなのですが、個人的には、主人公がブドウの収穫を待つシーンが印象的でした。ブドウの味見をしながら、ある植物の味を感じたら、収穫を始める合図だと主人公が気付きます。収穫のタイミングも、私たち醸造家にとって、ワインの味が決まる大事なポイントです。それが何の植物なのか……実際にご覧いただけたら、今飲んでいらっしゃる一杯がもっと味わい深くなるかもしれません。
映画とワインには、共通点があるように思います。映画を鑑賞した後にも、ワインを飲んだ後にも余韻は続きます。そして、作品を通して造り手の魂が生き続けていくことも、映画とワインに共通する美しさであるように感じました。
Profile
三澤彩奈(みさわ・あやな)
中央葡萄酒株式会社 栽培醸造責任者 山梨県の中央葡萄酒4代目オーナーの長女として生まれる。ボルドー大学ワイン醸造学部を卒業し「フランス栽培醸造上級技術者」の資格を取得。2007年に中央葡萄酒の醸造責任者に就任。栽培と醸造に取り組む。 2014年に世界的ワインコンクール「デキャンター・ワールドワイン・アワード」の金賞を日本で初めて受賞。甲州ワインの名を世界に。「グレイスワイン」は海外で最も飲まれる日本ワインに成長。2021年11月、「甲州」の新たな魅力を引き出した「三澤甲州2020」を発売。
「グレイスワイン」のウェブサイトは
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