圧倒的な透明感と凜としたたたずまい。セリフがない場面でも、繊細な感情表現で見る人をひきつける俳優の清原果耶さん。あるときは激しいアクションを繰り広げ、あるときは儚(はかな)げな女性、あるときはコミカルな表情と幅広い演技で、数々の賞も受賞している。
今、6月8日(月)から始まる、2度目の舞台出演となるフィリップ・リドリー作、白井晃演出『レディエント・バーミン Radiant Vermin』が早くも話題に。舞台にかける思いとともに、舞台のキーワードにもなっている“理想の家”について伺った。
━━出演のオファーがあったときは、どのような心境でしたか?演出の白井晃さんとご一緒させていただくのは、2023年の初舞台だった『ジャンヌ・ダルク』に続き、2度目となります。まず、また白井さんの作る舞台に戻ってこられることがすごくうれしいなという気持ちでした。同時に、『レディエント・バーミン』というブラックコメディの難しい舞台を自分が演じるというか、その世界に入ることが全く想像がつかなかったので、楽しみな気持ちと緊張感というか、謎めいたものに飛び込むドキドキ感がありましたね。楽しさと緊張感は同じぐらいで、本番までどちらが勝ることもなく進んでいくんだと思います。
━━最初の舞台は、膝が震えるほど緊張されたそうですが、それでも出演を決めた理由を教えてください。やはり白井さんとまたご一緒できるということは大きかったです。白井さんとのものづくりは本当に心が豊かになるというか、温かい時間だったと記憶していて、また機会があればご一緒したいとずっと思っていました。初舞台は、全てが初めての経験でわからないことも多くありましたが、その都度、白井さんやキャストの皆さん、スタッフの方々が教えてくださったのが心強かったですね。かなり序盤から楽しんで稽古に臨めていたと思います。
━━白井さんとのお仕事は、どのような感じで進むのでしょうか?白井さんの演出はとにかく丁寧で、わからないこともわかるであろうことも、全部言葉にして説明して教えてくださるので、非常に勉強になりました。前回は、本当に右も左もわからない状態で臨みましたが、とにかく寄り添ってくださる印象です。最初は舞台での発声方法もわからなかったので、白井さんに本稽古に入る前にワークショップを開いていただき、マンツーマンで発声ばかりを練習する時間を設けていただきました。そういった時間のおかげで、なんとか稽古にも追いついていけたように思います。
━━舞台の醍醐(だいご)味は、どのような部分だと思いますか?舞台は同じシーンの繰り返しを積み重ねていくという世界だと思っています。私はすごく稽古が大好きで、舞台の稽古だと何度も何度も同じシーンについて考える時間があって、選択肢が毎日広がっていく感じがするんです。何かアイデアを思いついた日があればそれを試すもよしだし、白井さんから何か言葉をいただいたことで演技を変えていったりとか、真剣なんだけれど、遊びのようなゆとりがあるというか。そういった時間がすごくぜいたくで、好きですね。また、実際の舞台の上では、毎日違うような感覚になれるのも楽しいです。その日の自分のコンディション然り、何よりも観客席の空気感で、第一声も歩き方も違ってくるような緊張感と、繊細でフレッシュな感覚が舞台ならではの魅力だと思います。
━━今回の舞台の見どころは、どのような部分でしょうか?人間が誰しも持っているであろう欲望の先に焦点を当てているのが面白いなと思います。「夢の家を差し上げます」という手紙から始まり、オリーとジルの夫婦が残酷な秘密に触れていきますが、観客に「同じ立場になったらどうなんだ」という問いかけを残していくような物語の作りが魅力だと思います。欲望が先立つ作品ですが、その先にある「幸せになりたい」「子供に対しても幸せを与えたい」という、人間としてのすごく素直な部分も感じてほしいと思います。
━━前回は100人ほどの大勢のキャストの中での出演でしたが、今回は3人だけの舞台ですが、不安はありますか?少ない人数だからこそ作り込むことができる複雑さ、みたいなものがあるのかなと思っています。セリフの一投一投をしっかり渡せそうな感じというか、目を見て親密に話す感覚になりそうなので楽しみです。セリフの掛け合いがすごく多いので、一つのセリフのニュアンスを変えることで、その後も大きく変わっていきそうな感じがしていて。ジルを任せていただいたからには精いっぱい頑張らないとと思います。
━━ジルという役は、非常に難しいと思いますが、共感できる部分はありますか?ジルに関しては、人間の愚かな欲望にのまれていくさまを露呈しているのに、なぜこんなにも魅力的に見えるんだろうと感じました。その多面性を表現することはすごく難しいし、ハードルも高いとは思いますが、ジルという人間にもっと触れてみたいという気持ちは強くあります。欲望のままに、ある秘密の虜になっていく夫婦の感情に共感を覚えるのは、なかなか難しいですが、ジルの欲望の膨らみ方を理解することはできて、その欲望に取り込まれていく、振り回されていくジルがなんだかものすごく私の中では愛おしく思える部分があります。でも愛おしく思った時点で、もうすでにこの作品の穴に落ちているんですよね。愛おしいという気持ちを持つということは自分事として役をとらえているはずですが、客観的に見てしまう部分もあって。視点が色々と入れ違う役どころが魅力的だなとは思います。見る人によってとらえ方も変わってくるのではないでしょうか。少なくともジルが一番欲しかったものとか、愛していたものとか、それが自分なのか、子供なのか、オリーなのか、そういう彼女の人生をちゃんとのぞけるようにできればと感じています。
━━今回の舞台の重要な言葉である「夢の家」。清原さんにとって、夢の家や理想の家というのはどういう家だと思いますか?ジルにとっては、すごく豪華なものが理想なんだろうと思いますが、私にとっては、こたつがあったらうれしいなとか、こたつにみかんもあったら嬉しいなとか、植物がいっぱいあったらいいなとか、ほっこり系ですかね。和やかな気持ちになれるようなお家が理想です。今も植物が四つ、五つぐらい家にあるんですけど、ジャングルみたいな家にしてみたいですね。虫は苦手なんですが(笑)。こたつはみんなから「買うともう動けなくなるよ」と言われて、仕事ができなくなるのは困るかなと思って買わずにいるんですが、いつか買いそうな気はしますね。寒い日は特に、家に帰ってこたつに入りたいです。
━━今、お家の中で一番癒やされたり、大好きな場所はどこですか?趣味で油絵を描くんですが、お絵描きコーナーがなんとなくあって、そこが好きですね。絵を描くためだけのコーナーに、筆とか、頑張ってそろえた絵の具とかキャンバスとか、前に描いた絵とかを置いていたりして。そこの空間は、すごくアウトプットできる場所なので好きです。描きたいモードの時は、忙しくても寝る間を惜しんで描きます。好きな音楽を聴きながらとか、直前に見た映画を思い出しながら色を塗ってみたり、といった描き方が多いですかね。
━━音楽はどのようなものをお聴きになりますか?幅広く聴きます。バンドも、クラシックも、ジャズも聴きますが、邦楽の方が多いかもしれません。その時々ですね。
━━ジルの欲望の膨らみ方を理解できるとのことですが、どうしても自分の欲望が抑えられないということはありますか。「食べたいと決めたものは食べたい」ぐらいですかね。それ以外には、あんまりないかもしれません。例えば、仕事が終わったらこれを食べようとか、これを絶対に作りたいというときもありますし、撮影の合間になんか美味しそうな焼き菓子屋さんとかを見つけちゃうと、絶対に昼休みに買いに行きたいとか、結構ハードにやるタイプですね。好きなスイーツは、和菓子だと求肥やういろう、すあまとかは大好きです。洋菓子なら、ガトーショコラやモンブラン、シュークリーム、ドーナツも好きです。忙しい合間のちょっとした、優しい気持ちになれるご褒美ですね。
スイーツ以外だと、欲望というより夢ですがサックスが欲しいですね。過去に、アルトサックスを吹く役をやらせていただいたときに、管楽器ってとても楽しいなと思って。でもなかなか環境も整わないと挑戦できないので、プライベートでは難しいなと思いつつ先延ばしにしています。
━━ジルが、最終的に何を大切に考えていたかを表現されたいとのことですが、清原さんにとって、今、人生で最も大切なことはなんでしょうか?難しい質問ですね。やっぱり“恩返し”だと思います。自分が作品に出演させていただいたり、お世話になった方々の何かしらの役に立つということもそうですが、自分自身が俳優を続けていたり、生き続けることが誰かの希望であったり、期待につながっていくことができればと考えています。
━━ご多忙な日々かと思いますが、健康対策で取り組んでいることがありましたら教えてください。手洗い、うがい。そして体を温めることには気をつけています。酵素浴とかよく入りますね。体の芯までポカポカします。映像の世界や舞台に立つため、恩返しのためにも、健康に生きていくことをこれからも大事にしていきたいです。
『レディエント・バーミン Radiant Vermin』あらすじボロ屋に住んでいた、オリーと妊娠中のジルという20代後半の夫婦。ある日、「ミス・ディー」と名乗る家の仲介者から、「夢の家を差し上げます」という手紙が届く。半信半疑で向かった先は、浮浪者がうろつく荒れ野原に立つ古びた家。そこでふたりは、その家に隠された「残酷な秘密」を知る。誕生してくる赤ちゃんのために理想のマイホームを作ろうと、たちまちその秘密の虜になったふたりは次々と不思議な“光”とともに家を豪華にリフォームし、荒れ野原だった一帯をリッチなおしゃれタウンへと変貌させていくのだが……。その光とはいったい……? タイトルの「Radiant(レディエント=光る、輝く)」と「Vermin(バーミン=害虫、害獣)」を組み合わせた言葉が本当に意味することとは?
■公演概要
『レディエント・バーミン Radiant Vermin』
【日程】2026年6月8日(月)〜7月5日(日)
【会場】シアタートラム ※兵庫、宮崎、新潟、愛知公演あり。
【作】フィリップ・リドリー
【翻訳】小宮山智津子
【演出】白井晃
【出演】清原果耶、井之脇海、池津祥子
【企画制作】世田谷パブリックシアター
【主催】公益財団法人せたがや文化財団
【後援】世田谷区
【お問い合わせ】世田谷パブリックシアターチケットセンター tel. 03-5432-1515(10:00-19:00)
【公式 HP】
https://setagaya-pt.jp/stage/31083/【公式 X】@radiantvermin26
【公式 Instagram】@radiantvermin26
【衣装クレジット】ブラウス ¥39,600(RUMCH)
contact@rumche.com スカート¥20,350(IMMEZ)
http://immez.official.ec/photos: Tomoko Hagimoto/styling: Ayuko Takagi/hair & make-up: YOSHi.T/text: Rica Ogura
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