山梨県の中央葡萄酒の醸造責任者として、豊かな自然の中で日々ブドウの栽培と醸造に向き合い、「甲州」の名を世界に広める三澤彩奈さん。今回は、イタリアを代表する赤ワイン「バローロ」の産地で女性の未来を切り開いた女性醸造家についてつづります。
イタリアを代表する銘酒に、ネッビオーロというブドウ品種から造られる「バローロ」という赤ワインがあります。例えばフランスでは、特定の産地にブドウ畑があり、全ての地域圏でワインを造っているわけではないのですが、イタリアでは全州にワイン産地が広がります。中でも、ピエモンテ州のランゲ地方から生まれるワイン「バローロ」と「バルバレスコ」は、長期熟成型のワインとして世界で名を馳(は)せます。私自身の長年のアイドルの一人が、バローロの中心地でワインを造る醸造家のキアラ・ボスキスでした。
キアラと試飲したワイン
映画「バローロ・ボーイズ 」一番左の女性がキアラ・ボスキス
バローロの女性醸造家の草分けとなったキアラは、後に女性醸造家団体「バローロ・ガールズ」の中心メンバーとなり、さらなる産地の改革を進めていきます。
しかし、彼女は「バローロ・ボーイズ、バローロ・ガールズと革新に関わって来たけれど、一番私にとって重要な改革は、グリーン・レボルーションだった」と言います。キアラのワイナリーは、バローロで初めて、オーガニック認証を取得したワイナリーとなりました。このオーガニック認証は、畑での取り組みが極めて厳格に定められており、日本で流行しているあいまいな「自然派」ワインとは異なります。オーガニック認証だけではなく、彼女は畑の生物多様性に対しても前向きな活動を行っています。多様なバーブで土を覆う草生栽培を行い、鳥の巣箱を設置し、蜂の家を畑に作っています。
バローロのブドウ畑
ボロゴーニョは2000年代に入り、ファリネッティ社に売られることになりました。その後はキアラの弟も彼女を手伝うようになり、今、ワイナリーでは、キアラの3人の姪たちが彼女の意志を継ぐべく、奮闘しています。畑と醸造を担当するベアトリーチェは、バローロの女性で初めてトラクターを操縦するライセンスを取りました。ファイナンスを学んだエレナは、マネージメントを担当。末っ子のヴィクトリアはまだ学生ですが、卒業後はワイナリーに入る予定だそうです。バローロの村をキアラと歩いていると、若い栽培家や醸造家の女性がキアラに挨拶をします。私は、キアラが新世代の栽培醸造家のロールモデルとなり、彼女たちを育てていることに深く感動しました。
キアラ、ベアトリーチェ、ベアトリーチェと協働する女性農学者
キアラを訪問した日、彼女はキプロス、アメリカ、ドイツと、様々な海外訪問者の対応に追われていました。夜まで電話で受注対応をする彼女を見ながら、純粋でまっすぐ、義理堅く、完璧主義者…キアラと一日を一緒に過ごす中で、そんな言葉が浮かんできました。彼女は「みんなを幸せにしたいだけ」と言います。
キアラと姪のエレナ
キアラは、15haの畑から6銘柄のワインを造っています。通常はデイリーワインとされる「ドルチェット」や「バルベーラ」という品種から造られるワインも、彼女の手にかかると、果実の味わいがあふれるとてもエレガントなワインになります。そして、ネッビオーロから造られる「ランゲ・ネッビオーロ」と、彼女の代名詞でもある3種類の「バローロ」。中でも、キアラの渾身(こんしん)の一本「カンヌビ」というクリュの名前を冠したバローロのすばらしいこと。
女性醸造家は、身体の変化を機に50歳を境に進退を考えることが多いと聞きます。しかし、ワイン醸造家となり40年以上が経った今もキアラは輝き続けています。彼女のワインは安価なものではありませんが、キアラの人生が詰まったワインを、私は決して高いとは思いません。日本にも輸入されていますのでぜひ飲んでみてください。
・唯一無二の品種「甲州」【三澤彩奈のワインのある暮らし】
三澤彩奈(みさわ・あやな)
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