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'©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 『ドライブ・マイ・カー』全国絶賛上映中!'

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©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 『ドライブ・マイ・カー』全国絶賛上映中!

濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』に見る、映画と車

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。9月30日発行号の巻頭言ではカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』について綴ります

真っ赤なサーブと黄色いサーブ

2年ぶりに開催された今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』を久しぶりに〝映画館〞で観ました。コロナ禍のため、なかなか映画館で観るという気持ちにはなれませんでしたが、村上春樹さんの原作を世界的な評価を受けている濱口竜介監督がどのような形で映画化したのか、とても興味を惹かれたからです。本誌前号(8月26日号)でも、主人公の家福役を演じた西島秀俊さんのインタビュー記事を掲載しているので、そちらも読んでいただければと思います。(marieclairejapon.comではインタビュー動画も公開中)

この映画は村上春樹さんの短編小説集『女のいない男たち』(文藝春秋)の中に収録されている「ドライブ・マイ・カー」「木野」「シェエラザード」の3編をベースに作られていますが、大胆に脚色されています。上映時間は179分。最近では珍しく長尺な映画ですが、テンポがよく、長いと感じることはありませんでした。

映画では、抱えていた秘密もわからず突然逝ってしまった妻への喪失感を持ち続ける俳優・演出家の家福と、彼のドライバーになる、やはり自分の母親の死に責任を感じるみさきが同じ時間を過ごしながら、徐々に他人を受け入れ、自分も受け入れる過程を淡々と描き、2人が再生していく様を描いています。特に舞台となる広島から、みさきの故郷である北海道に車で向かい、移り行く風景や多くのトンネルを通過する場面は美しく、2人の静かな、徐々に変化していく心の動きが感じられ、とても好きなシーンでした。

この映画で使われる車は真っ赤な「サーブ900ターボ」。小説の中では同じ「サーブ」なのですが、黄色のカブリオレ(屋根がフルオープンになるタイプ)です。

「ドライブ・マイ・カー」の収録された村上春樹さんの著書『女のいない男たち』(文藝春秋)

「サーブ」はスウェーデンの航空機メーカー、サーブ・スカニア社の自動車部門の名前でした。この900シリーズは1978年から1993年まで販売されましたが、その後GMの傘下に入ったりなどの紆余曲折があり、現在では完全消滅してしまった車ブランドです。実は私も「サーブ900S」、その後「サーブ9-5」を愛用していたこともあり、とても思い入れのある車です。特に洗練されたデザインというわけではないのですが、航空機のコックピットを連想させる湾曲したダッシュボード、ドライバーズシートを向いたメーター類、コンソールボックスの下部にあるイグニッションキーの位置などインテリアが独特で、ほかの車にはない雰囲気を醸し出していました。マンハッタンのエリートカップルを皮肉を込めて描いたウディ・アレン監督の映画『夫たち、妻たち』(1992年)にも登場していて、プレッピーの車を代表するものとしてニューヨーカーに人気がありました。

原作者・村上春樹さんは車雑誌で試乗レポートも書かれているほど、車への愛情が深くこだわりのある方だと思います。『騎士団長殺し』(新潮社)では、重要な登場人物の一人である免色渉の乗っている銀色の「ジャガー」スポーツクーペの詳細な記述もあります。同様に車好きの私が『ドライブ・マイ・カー』について感じたのは、家福の車はやはり原作に忠実に黄色のカブリオレを使ってほしかったなと。家福というどこか他人を寄せ付けない雰囲気を感じさせる男にはやはり黄色のカブリオレだと、直感的に思ってしまいました。黄色のカブリオレは軽快さやスポーティーさとともに車への強いこだわりと孤独な翳りもイメージとして観る人に与えると思うからです。車に対しての家福のパーソナルな思い入れをもう少し感じられたらと思いました。

それほど車というのは、映画の中で大事なポイントを持つものだと思うのです。

車が印象的だった名画3選

印象に残っているのはフランソワーズ・サガン原作の『ブラームスはお好き』を映画化した『さよならをもう一度』(1961年 監督アナトール・リトヴァク)です。年上の女性(イングリッド・バーグマン)に恋する、裕福な母親と暮らすアメリカ人青年(アンソニー・パーキンス)が運転していた「トライアンフTR3」。イヴ・モンタン演じる恋人と別れた後、イングリッド・バーグマンが涙で曇った視界をクリアにするため、ワイパーを思わず動かす演出は、この映画の名場面として話題になりました。

ほかにもブリジット・バルドーが最盛期を過ぎたファッションモデルを演じた『セシルの歓び』(1967年 監督セルジュ・ブールギニョン)があります。ピエール・カルダンの純白の衣装を着たバルドーが、彼女に思いを寄せる地質学者の青年(ローラン・テルジェフ)の運転する「ミニ」でロンドンからスコットランドへドライブ旅行に出かけますが、初秋のスコットランドのヒースの丘を走る真っ赤な「ミニ」がとても美しく撮影されていました。

極め付きは1966年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したクロード・ルルーシュ監督の『男と女』でしょう。この映画の主人公は「フォード」のワークスドライバー。モンテカルロ・ラリーで優勝した後、恋人役のアヌーク・エーメに会うため、ラリーで使った泥だらけの白い「マスタング」を駆ってモンテカルロからパリまで寝ずに運転します。数年前、舞台となったドーヴィルの町を訪れ、映画と同時代の「マスタング」が何台か走っているのを見た時、映画で使われる車の印象、影響力は、とても強いのだなとあらためて感じました。

2021年9月30日

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