【国際女性デー】開拓者たちの肖像。タイル職人 吉永美帆子さん

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2025.03.08

【国際女性デー】開拓者たちの肖像。タイル職人  吉永美帆子さん

3月8日は「国際女性デー」。1975年に国連によって制定され、各国でジェンダー平等や女性のエンパワーメントについて話し合う機会になっている。この50年の間に、働く環境をはじめ、女性を取り巻く状況は変化してきた。その過程には、活躍の場を自ら切り開いてきた人たちの足跡がある。2025年の今、女性が少ない世界で奮闘する4人の生き方に迫った。

画家からスタートした異色のタイル職人

建物の外壁や玄関、床、浴室などにタイルを施工するタイル職人。2020年の国勢調査によれば、全国に2万5千人弱いて、そのうち女性は2%ほどだ。

「2%もいるなんて驚きです。現場ではほとんど女性に会ったことがありません」

そう話すのは、10年ほどタイル職人として働く吉永美帆子。職人を志したのは30代半ばで、異色の経歴を持つ。

タイル職人 吉永美帆子
東京都品川区中延にある「隣町珈琲」で自身がデザイン、絵付け、施工したタイル(撮影:塚原沙耶)

「美大で油絵を学んだ後、画家として活動していましたが、それだけでは生計が成り立たず、ウェブ制作の仕事をしていました。でも、その状態が中途半端に思えて、当時すごく嫌だったんです。母が34歳で亡くなっていたので、自分が34歳を迎える年に人生を見つめ直し、このままでは駄目だと一念発起しました」

絵を描き始めたきっかけを振り返ると、ヨーロッパの壁画へのあこがれがあった。外壁に使われるタイルに惹(ひ)かれ、インターネットで調べるうち、タイル職人・白石普のホームページに行き着く。白石はタイルを張るだけではなく、オリジナルタイルのデザイン、制作も行う異能の職人だ。イスラムの幾何学モザイクに魅せられて、モロッコの工房で修業。モスク建設に携わった後、日本で“美術タイル”の分野を独自に切り開いていた。「これだ」と思って弟子入りするも、施工するのは、男性しかいない建設現場。想像以上に厳しい環境だった。

「それまでは絵を描いていただけですから、体力なんてありません。セメント袋は一つ25キロで、男性は一度に2、3袋を抱えられますが、私は1袋しか持てない。当然、トイレも女性用はありませんでした。工事現場用の手袋や安全靴も、女性が使える小さいサイズはほとんど売っていないのです」

絶対にタイルを自分の仕事にするという強い意志のもと、現場にしがみついた。その場で役に立つ人間かどうかは、佇まい一つで周囲に伝わってしまうという。

「ただでさえ女性は目立ちますから、ボーッと立っていたら『お姉ちゃん、邪魔なんだよ!』と怒鳴られてしまいます。好印象を持ってもらうために、車を降りる瞬間から“現場モード”の自分を作り、大きな声であいさつする。どんな作業着を着るかも現場ごとに考えます。汚れているほうがいいか、きれいなほうがいいか。あまりピカピカだと、新人に見えてしまう。男性がよく着ているつなぎの作業着はトイレの時に不便ですし、汚れてもかっこいい女性向けの作業着がほしいです」

次第に、現場ではコミュニケーションが重要で、その点で自分が生かせることもわかってきた。

「建設現場では、短期間でいろいろな業種の人たちが集まって仕事をする。終わるとまた次の現場で、違う人たちと付き合っていくわけです。細やかなやりとりや気遣いは役に立ちます」

周囲から「女性だから話しやすい」と思われ、功を奏することもあれば、それが裏目に出ることもある。

「女だからひるむだろうと甘く見られて、凄まれることもあります。少し震えてしまいますが、そこで無闇に謝ったりせず、ちゃんと論理的に話さなくてはいけません。この10年で、だいぶ強くなったと思います」

タイル職人 吉永美帆子
デザイン画を描く様子(写真提供:吉永さん)

白石と吉永はEuclidというユニットを組み、個人宅から商業施設まで多岐にわたる仕事を請け負っている。2022年に開園したジブリパークでは、「ジブリの大倉庫」のタイルをデザイン、制作、施工した。中央階段に144色20万枚ものタイルが使われている。大規模な仕事で、職人やタイルメーカー、工場など、関係先との連携が必須だ。数々の現場で培ってきたコミュニケーション能力が、ここで発揮された。

「タイルの色も形も今までにないものばかり。工場の人に『こんな色は出せないよ!』と言われて、現場と工場を行ったり来たり……。大仕事で交渉を重ね、自信がつきました。どんな現場が来ても怖くないと思えるようになりましたね」

そもそも、日本でタイルのデザイン、制作、絵付けなどを一貫して行う職人は白石と吉永の他に見当たらないという。

「私のようにデザインや絵付けをするのであれば、働き方も広がります。きっと、今ある仕事や働き方がすべてではありません。職人の世界で女性が活躍する可能性はさまざまにあると思います」

タイル職人 吉永美帆子
タイルに絵付け(写真提供:吉永さん)

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©︎marie claire/text: Saya Tsukahara

Profile

吉永美帆子 Mihoko Yoshinaga

1979年、東京都生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。画家として活動したのち、2013年、タイル職人の白石普に弟子入り。17年、白石とともに特注タイルの株式会社Euclidを設立。同社でタイルの絵付けを担当するほか、施工も行う。2級タイル張り技能士。

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