【国際女性デー】開拓者たちの肖像。日本ラグビーフットボール協会公認レフリー 桑井亜乃さん

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2025.03.07

【国際女性デー】開拓者たちの肖像。日本ラグビーフットボール協会公認レフリー 桑井亜乃さん

3月8日は「国際女性デー」。1975年に国連によって制定され、各国でジェンダー平等や女性のエンパワーメントについて話し合う機会になっている。この50年の間に、働く環境をはじめ、女性を取り巻く状況は変化してきた。その過程には、活躍の場を自ら切り開いてきた人たちの足跡がある。2025年の今、女性が少ない世界で奮闘する4人の生き方に迫った。

レフリーとして強く美しくありたい

2024年夏、パリ五輪の7人制ラグビー女子のプール戦・順位決定戦でレフリーを務めた桑井亜乃。選手とレフリー、両方の立場で五輪に参加したのは、ラグビー界で世界初だ。そして同年12月、今度はジャパンラグビー リーグワンで、女性で初めて主審デビューを果たした。桑井が選手を引退したのは、21年8月。わずか3年の間にレフリーとして躍進した。

日本ラグビーフットボール協会 レフリー 桑井亜乃
撮影:西田香織

「ラグビーは男性のスポーツというイメージがあるなかで、女性がレフリーを目指すのは難しいことです。でも壁を一度壊してしまえば、きっとすぐに後が続く。五輪を経てリーグワンの舞台に立ったことで、女性レフリーの道を開くことができたと思います」

ラグビーを始めたのは、大学を卒業してからのことだ。小さい頃に長野五輪をテレビで見て五輪に憧れ、10代は陸上やアイスホッケーなど、さまざまなスポーツを経験する。中京大学に進み、陸上の投てき選手として活動した。ラグビーとの出会いは大学の授業だった。

「こんな楽しいスポーツがあるのか、と。ボールを持って走っていいなんて、鬼ごっこみたいで。そしたらちょうど、ラグビーが16年のリオデジャネイロ五輪の種目に決まったんです。大学の先生から『背が高いし、スピードもあるから、やってみたら?』と勧められ、今挑戦しなかったら後悔すると思って決意しました」

本格的に始動し、ラグビーがいかに大変なスポーツであるかを痛感した。

「走り続けるのも、ぶつかって倒れて起き上がるのもしんどい。アイスホッケーなどは、途中でけっこう交代できるんです。ラグビーはどんどん苦しくなって、その苦しさすらも楽しく思えてくる、という感じでした」

五輪までの4年、まさに「死闘」というべき練習の日々が待っていた。

「朝、午前、午後、夜と、一日に何回も練習があります。寝て起きて食べて練習して……を繰り返すうちに、今が朝なのか夜なのかもわからなくなってくるんです。最後の年は、年間280日くらいが合宿。もちろん合宿以外の日は練習があります」

辿(たど)り着いた五輪の会場で、試合前、喜びや緊張、興奮が込み上げて嗚咽(おえつ)した。リオ五輪後、次の東京五輪も目指したが、コロナ禍で開催は延期に。望みを捨てず、工夫しながら練習を続けるも、21年、代表選考に落選して引退を決める。その時すでに、次なる目標を定めていた。レフリーとして、3年後のパリ五輪に出場することだ。

「ラグビー協会からレフリーという選択肢を最初にうかがったのは、20年の3月でした。翌年、引退にあたってセカンドキャリアを考えた時、何かやるなら本気でやりたいと思った。それで、今私のレフリーコーチを務めてくださっている方に、『3年で五輪に行けますか?』と聞いたんです。とんでもない質問だったと思いますが、『不可能ではない』と答えてくれた。それで、また憧れの五輪を目指しました」

元選手だからルールは理解しているが、レフリーにしかわからない細かいルールや感覚があるという。それらを学びつつ、日本代表候補などの練習や試合で場数を踏んだ。

日本ラグビーフットボール協会 レフリー 桑井亜乃
2025年1月、レフリーを務める桑井(写真提供:ジャパンラグビー リーグワン)

五輪のレフリーを決めるのは、国際競技連盟のワールドラグビー。選ばれるには、海外の大会で自分の存在をアピールする必要がある。フィジーに語学留学後、自身で伝手を探して交渉し、イギリスの大会で笛を吹いた。そして世界で11人しかいない女子大会のレフリーの座を勝ち取る。

「パリ五輪では女子の試合のレフリーでしたが、普段は男女両方の試合を担当します。女子のほうがミスなく継続して、体力的にきついこともあるんです」

五輪から帰ってきて、すぐにリーグワンを見据えた。

「近年、海外では男子のプロリーグで女性が主審を務めるケースが増えてきていますが、日本はそうではありませんでした。私自身が、日本の現状を変えたいと思ったのです」

リーグワンで主審を務め、今はさらなるステップアップを思い描く。レフリーに必要なものは何かと尋ねると、こう答えた。

「グラウンドに入った時の存在感だと思います。『私はみなさんと同じぐらい努力をしてきました。今日は一緒に走り、ゲームをコントロールします』と。グラウンドの上では強く美しくありたいですね」

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©︎marie claire/text: Saya Tsukahara

Profile

桑井亜乃 Ano Kuwai

1989年、北海道生まれ。中京大学卒業後、Rugirl-7に加入。1年間働きながらラグビーに取り組んだ後、立正大学大学院に進学してラグビー部に所属。2014年からアルカス熊谷にも所属。大学院修了後の15年、八木橋百貨店に入社。16年、リオ五輪に7人制女子日本代表として出場。21年8月、現役を引退。百貨店を退職し、レフリーに転向。24年8月、パリ五輪でレフリー団に参加。同年12月、リーグワンで主審デビュー。

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