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京都を舞台にした「グッチ」のブランド創立100周年記念イベント

ライトアップされた清水寺では最新のコレクションが展示された

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。8月26日発行号の巻頭言では7月に京都で行われた「Gucci in Kyoto」の模様を綴っています。

悠久の都、京都はイタリアの古都フィレンツェと1965年に姉妹都市の提携を結んでいます。

フィレンツェはトスカーナ州の州都。15世紀にはメディチ家の庇護の下、ルネサンスが花開き、市内にはウフィツィ美術館をはじめ、歴史的な建造物や寺院、宮殿などが多数あり、世界的な観光地としても有名です。また産業では毛織物や皮革製品の生産地として優秀な職人も数多く、クラフツマンシップを代表する街として知られています。ラグジュアリーブランド「Gucci」はこの街で誕生しました。

京都とフィレンツェ両都市に共通するのは、どちらも伝統と創造の中心地であるということでしょう。

7月18日と19日、京都で「Gucci」ブランド創立100周年を祝したイベント「Gucci in Kyoto」が開催されました。このイベントは100周年を機に、「Gucci」のクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレが、最新コレクション「Aria」を通じて打ち出したビジョンと美学を体現するエキシビションプロジェクトです。

「Aria」とはイタリア語で空気や息吹を意味する言葉です。アレッサンドロ・ミケーレはこのエキシビションを通じて「Gucci」というブランドが光と自然の息吹の中で再生されるという物語を構築しました。

その物語が語られる第一の場として用意されたのは、世界文化遺産で国宝でもある清水寺。そしてそれを包み込むような音羽山。赤紫の照明でライトアップされた清水寺の本堂や経堂、回廊や奥の院といった建造物を舞台に、「Gucci」の「Aria」コレクション約60体が展示され、このブランドの真髄が光と自然の中で再生されるというビジョンが大胆に表現されていました。曼荼羅のような柄のメンズのスーツ、スパンコールをちりばめたトップスなどカラフルな作品も多く、いにしえから続く清水寺と不思議にマッチングして、とても神秘的な雰囲気が醸し出されていました。

バンブーハウスではバンブーバッグが四代田辺竹雲斎氏のアートワークとともに展示された

第二の場となったのは祇園祭で山鉾が立つ京都中心部の町家。この旧川崎家住宅は1920年代、まさに「Gucci」ブランド創設と同時期に建造された、京都市の有形文化財に指定されている建物。この今にも廃屋となろうとしていた和洋折衷様式の歴史的建物を「Gucci」はたいへんな手間をかけ再生し、「グッチ バンブーハウス」と名付けました(7月22日から8月15日まで一般公開された)。この「バンブーハウス」では「Gucci」の100年に及ぶ歴史の中で繰り返し登場し愛されてきた、持ち手部分がバンブー(竹)のハンドバッグのアーカイブと新作のバンブーバッグの数々が、竹を用いた作品で世界的な評価を得ているアーティスト四代田辺竹雲斎氏によるアートワークとともに展示されていました。この「バンブーハウス」では京都とフィレンツェの誇るクラフツマンシップとクリエイティビティがもたらす普遍的価値にフォーカスし、竹が節を持ちながらまっすぐに上に向かって伸びる姿に、今回の100周年という思いを重ね合わせたといいます。また数寄屋造りの茶室の設えは裏千家今日庵業躰(ぎょうてい)奈良宗久氏が監修し、竹の生えた庭と絶妙に調和した空間が広がっていました。

ハイジュエリーが展示された仁和寺

第三の場は、やはり世界遺産である9世紀に創建された仁和寺です。仁和寺宸殿に特別に設けられた会場で、季節の移ろいを描いた襖絵を背景に「Gucci」のハイジュエリーコレクションと新作のウォッチが畳の間に緑の植物を使って作られたショーケースの中に展示されました。ハイジュエリーコレクションの名は「ホルトゥス デリキアルム」(歓喜の庭)。「Gucci」の象徴的なモチーフを取り入れた、多様な美の折衷から生み出される万華鏡のようなアレッサンドロ・ミケーレの世界が、宸殿の前に広がる仁和寺の庭と共鳴し、神秘的な宇宙を作り上げていました。

3ヵ所の会場に分かれてのエキシビションは、京都の持つ伝統的な職人技や歴史に裏付けられた美しさと、「Gucci」の今回のプロジェクトのテーマ「伝統と創造」とがうまく響き合い、古都の新たな魅力の発見ともなっていたと思います。「ラグジュアリーを再定義する」というミッションを掲げる「Gucci」とアレッサンドロ・ミケーレは、色彩豊かでロマンティック、詩的で幻想的な独特の世界を表現する舞台として京都を再発見し、ラグジュアリーに対する現代的で革新的なアプローチを見せてくれたのです。

2021年8月26日

Profile

田居克人

Katsuto Tai, marie claire 編集長

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