ハンバーガーガストロノミー/ドンペリニョンのために
そんな永島の元に、ニセコで店を開かないかという話が舞い込んだ。
「5年前、冬季限定でレストランをやらせてもらったこともあって、この地には縁を感じている。強力な磁場に引き寄せられるようにして決断に至りました」

都会とは正反対の大自然に囲まれたニセコは、進むべき方向性を見失っていた永島にとって新しいひらめきの場所だった。
「東京にいると目からも耳からも、ものすごい量の情報が入ってくる。それに比べて北海道はノイズが少ない。アドリブや即興性といった、料理を作るうえで大切なものを強く感じさせてくれる。ここに来てようやく自分を振り返ることができた気がする」
これまでの人生はずっと旅をしてきたようなものだと永島は言う。
「正直、いまも無茶苦茶に苦しんでる。何をすべきか分からないまま壁と向き合ってる感じ。でもここに来て、ようやく執着を捨てられそうな気がしている。まだうまく言えないけど、ほんの少し、光が見え始めているんじゃないかな」
永島の人生に欠かせないのがスケートボードやスノーボードといった俗にいう「横乗り」だ。ニセコにはウィンタースポーツを愛する人たちとの新しい交流が待っていた。
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「ここではスキーやスノボを終えた人たちがオフ会みたいな感じでレストランにやってくる。『今日の雪、良かったよね』『明日はあっちのエリアがいいんじゃない?』そんな会話を交わしながら主客一体になれる場が生まれれば嬉(うれ)しい。みんながブワーっと盛り上がっていい気が流れてグルーブが生まれる。これを僕は現代の『懐石』と呼んでいるんですよ」
東京で飼い慣らされることに疲れた天才料理人は、大自然へ解き放たれ、野性を取り戻しつつある。「僕、いま毎日リボーンしてます。毎朝クールな空やパウダースノーを見て、胸も頭も空っぽな状態から一日を始められる。今日1日生き延びられたことを実感して、自分に誕生日おめでとうと言っているんです」
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いま永島は料理人の新しい未来を思い描いている。「人間はエモーショナルな生き物。まずはあったかい場所を作って、人が集まったらご飯食べて酒を飲む。ノってきたら音楽かけて踊ろうか、ってなる。これって人間の本質。ニセコではこの本質に立ち返って新しいスタイルに挑戦したい。懐に石を温めて空腹をしのいだ懐石料理のストーリーを、国籍を問わず多くの人とシェアできれば」。これまで海外で培った経験も若手に伝えていきたいと語る永島は、ニセコで新たなステージへの一歩を踏み出した。

text: Junko Kubodera, interview & edit: Miyuki Kikuchi
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