「ディプティック」が紡ぐ香りの旅。フレグランスのたしなみかたをローランス・セミション氏にインタビュー
世界初の開催となったフランスの老舗フレグランスメゾン「ディプティック」の没入型ポップアップイベント「Un Air de Paris(アン エール ドゥ パリ/パリの空気)」(7月7日~17日)。メゾンのエスプリとパリ独自のムードが融合したこの空間は、多くの人々を魅了し、話題を集めた。この特別な機会に合わせて来日したシニア・ヴァイス・プレジデントのローランス・セミション氏が、ポップアップの神髄や、日本人が香りをより深く楽しむための秘けつを明かしてくれた。
――世界中が初めて目にする「ディプティック」の大規模なポップアップ。実施を決断した背景とは、どのようなものだったのでしょうか。
「大きな挑戦ともいえる今回の試みは、メゾンの深遠なフィロソフィーと、私たちが誇るサヴォア・フェール(職人技)を感じていただきたいという思いからスタートしています。メゾンの発祥地であるサン・ジェルマン大通り34番地を訪れるのが困難な方々にも、実際に私たちの世界観を東京で再現することで、パリ独特のムードや、私たちが持つ独特の創造性や文化、芸術、そして繊細な魅力を感覚的に伝えたいと思ったのです。訪れる方々には、メゾンの精神やフレグランス、キャンドルなどの香りを多様な方法で堪能し、インスピレーションを受けたり、五感で何かを味わったりしていただきたいと思いました」
「今回はフレグランスやキャンドルなどのアート的なディスプレーだけでなく、ワークショップの場もご用意しました。アトリエを再現した一角で、ポップアップで感じたインスピレーションをもとに、好みの色鉛筆やクレヨンを選び、ペーパーキャンドルを作製するというものです。訪れるすべての人に、ご自身の感性や想像力を解き放ち、独自のアート作品としての表現を存分に楽しんでいただきたいと願いました」
――メゾンにとって大切なサン・ジェルマン大通り34番地周辺は、どのような雰囲気を持つのでしょうか。
「サン・ジェルマン大通り34番地。ここはディプティック発祥の地であり、現在もアイデアの源流ともいえる場所です。歴史と現代が調和し共鳴するサン・ジェルマンエリアの中心に位置し、その独自の魅力を放っています。サン・ジェルマン自体はパリのリヴ・ゴーシュ(左岸)にあり、古き良き文化と斬新なトレンドが交差する場所です。伝統的な景観や丁寧に手入れを重ねた植物園も美しい姿を魅せる一方で、新しい文化の息吹も感じられるのがこのエリアの魅力です。フランス人にとっても心のよりどころといえるでしょう」
「この特別な場所が持つエスプリや文化的なエッセンスは、私たちメゾンのアイデンティティーとも深く結びついています。例えば、ディプティックが位置する34番地の隣には『オルフェオン』という1960年代に一世を風靡(ふうび)したジャズクラブがありました。60年代の華やかな夜を彩ったこの場所は、『ディプティック』の創業者たちや多くの芸術家たちの交流の場となりました。その頃のムードを受け継ぎ、ブティックには『オルフェオン』を感じさせるディスプレーを取り入れ、さらにはフレグランスコレクションの“オルフェオン”を生み出しました。歴史的なエッセンスを現代に継承するということは、サン・ジェルマンで生まれたメゾンの神髄ともいえるエピソードです」
――ローランス氏の人生において、心に残る香りのエピソードや、香りの力を強く感じた瞬間はありますか?
「香りは私たちの記憶と非常に密接な関係にあります。それは、時空を超えた旅をするかのようなものです。例えば、いちじくの木のウッディーな“フィギエ”の香りをかぐと、私は幼い頃にバカンスで訪れたギリシャの景色や、太陽の光、緑の葉の香りが鮮明によみがえります。その時の情景、感じた風の感触、果てしなく広がる海の色、その全てが香りを通じて心の中に甦るのです」
「そのような体験は、香りとともに私たちの中に刻まれていて、何年たったとしても忘れることができません。私の人生には、そうした香りと記憶に関連したエピソードが数え切れないほどあります。これこそが、香りの持つ力、魔法のような魅力だと思います。香りは、私たちの心を癒やし、元気づけてくれる素晴らしい存在ですね」
――日本における独特な感覚やセンス、そしてフランスの香水文化は、異なる側面を持っています。そんな中、日本の方々に向けて、香水をどのように楽しみ、日常に取り入れるかのアドバイスをお願いします。
「日本の方々は、独自のセンスや美意識を持っていますね。まわりの空間や人々の気配を非常に重視する文化があると感じます。私がおすすめしたいのは『ディプティック』のソリッドパフュームですが、繊細に香りを楽しむための完璧なアイテムです。この香りは、動きや風の中で微妙に変化し、自分だけの特別な香りの空間を作り出してくれます。さらに、パッケージも非常にエレガントで、持ち運びにもぴったりです」
「私たちの“フレグランス ブレスレット”は、日常の動きやしぐさの中で、香りを繊細に楽しむことができるアイテムです。香りは、手を動かすたびにまとうものとして、その日の気分やファッションとのコーディネートを楽しむことができます。また、香りを深く楽しむためのシャワージェルやボディクリームなども良いですね。これらは、肌に直接触れることで、より身近に香りを感じることができます。大切なのは、自分だけのパーソナルスペースのなかで、さりげなく香りを満喫すること。そうすることで日常の中に、小さなぜいたくや喜びを感じることができると思います」
――マリ・クレール読者にメッセージをお願いします。
「私たちは、日本とその独自の文化や美意識に対して、常に深い敬意を持っていますし、それらを愛しています。日本は私たちのメゾンにとって、多くのインスピレーションの源となっています。その証しとして、特別に生まれたキャンドル“トウキョウ”があります。この素晴らしい国、日本から、私たちのポップアップイベントを開催できたことは、私たちにとって非常に特別であり、光栄なことです。マリ・クレール読者の皆さまには、これからも『ディプティック』の深い香りの世界を、心から楽しんでいただけることを切に願っています」
text: Nathalie Lima KONISHI
毎日のケアが楽しくなる!「ディプティック」のホームケアコレクション「ラ・ドログリー」