唯一無二に出会えるオーストラリア ~ウルルで、site-specificな体験を~
「site-specific art」という言葉をご存じの方も多いだろう。特定の場所を想定して創造される芸術のことで、そこに行かなければ見られない、体験できないアートのことを指す。コロナ禍の中、リモートで体験できることは確実に増えた。それでも、自ら足を運ばなければ見られない感動的な風景が世界にはまだまだ多い。それはまさに、「site-specific」な体験と言える。オーストラリアのノーザンテリトリーにある世界遺産「ウルル-カタ・ジュタ国立公園」もそのひとつ。ここでしか体感できない特別な世界を、ご紹介しよう。
世界最古の文化を抱くウルル
ウルルといえば、「エアーズロック」とも呼ばれ、「地球のへそ」の愛称でも知られる世界有数の壮大な自然美を誇る一枚岩。西オーストラリア州にあるマウント・オーガスタスに次いで、世界で二番目に大きな単一の岩石だ。
地上348m、周囲約9.6km、地下およそ6kmまで続いていて、見えているのは4%ほどに過ぎないとされている。ここウルルを含め、世界遺産「ウルル-カタ・ジュタ国立公園」は、先住民であるアボリジナルの人々、アナング族の聖地。彼らの先祖は5万~6万年前からこの地で生活していたともいわれている。世界最古の民族であり、彼らの文化は数千年前から一度も途切れることなく続いてきた、現存する世界最古の文化のひとつなのだ。
ウルルがこの姿になったのは7000万年前とされる。アナング族の人々がこの地で暮らし始めた時、どこまでも続く赤い砂漠の大地からにょきっと顔を出し、悠然と佇(たたず)むウルルの姿を見て畏怖の対象としたのも当然だろう。高層建築が立ち並ぶ都市部に暮らしている我々ですら、自然が生んだ類い希なる巨大造形物には息をのむ。ましてや、数万年前ならどうだろう。平らな大地に突如隆起している大きな岩は、真っ赤な夕日を浴びて、より赤く威厳を放つのだ。そこを文化の中心とし、文字を持たず「伝えるべき人にしか伝えない」という風習の中で、長きにわたり暮らしを営んできたアナング族。彼らの生活圏に足を踏み入れる時には、その文化に敬意を払わなければならない。彼らの生活を尊重するため、聖地の中でも最もセンシティブな場所には行かず、撮影もしない。ただ、寛容な彼らはほんの少しだけ、自分たちの文化を共有してくれる。それを見て体感すること、つまりウルルを訪れること自体が、ここでしか味わえない「site-specific」な体験なのだ。
この公園に来て、改めて驚くのはウルルの壮大さだけではない。男性の聖地とされるカタ・ジュタにも息をのむ。「多くの頭」を意味する名を持つゴツゴツとした岩山群は、546mの高さを誇る。そこにあるウォルパ渓谷をウォーキングすると、遠目で見るより遙(はる)かに大きいカタ・ジュタの迫力、悠久の時を経てきた美しく凜々(りり)しい岩肌を堪能できるのだ。
さらに、「ウルル-カタ・ジュタ国立公園」では、自然が造り出した造形美だけでなく、そこに行かなければ体験できないアート「site-specific art」にも出会える。
筆頭は、2023年5月に始まった「WINTJIRI WIRU(ウィンジリ ウィル)」(有料。要事前申し込み)。国立公園内のウルルとカタ・ジュタを望む特別なオープンエアのデザートシアターで、1,000台以上のドローンが織りなすショーが観られるのだ。ここで語られるのは、長くアナング族に伝わる歴史や教訓の詰まった祖先の物語の一部。彼ら私たちに見せてくれる文化の一部なのだ。
10名の先住民たちが監修し、3年を掛けて承認されたプログラムは、ドローンによる光とレーザー光線、音を巧みに操作することで、夜空にアニメーション化されたドラマを浮かびあがらせる。最新テクノロジーと古来の文化が融合した、光と音の幻想的なショーなのだ。
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