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「古都鎌倉と茶の湯のこころ」に参加して感じたこと

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。茶の湯のゆかりの地で、京都の茶人で千利休の専門家木村宗慎さんが、作家村上香住子さんと、茶の湯の奥深さを語る。

茶の湯は鎌倉から広まった

三谷幸喜さんが脚本を書いた、昨年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、武家が天皇に代わり、日本を支配していく過程を新たな視点で描き、大変な人気ドラマとなりました。

源頼朝の嫡出の次男にあたる三代将軍源実朝の描き方も、従来の解釈とは異なり、かなり好意的に描かれていたと思われます。

実朝は武家の生まれとはいえ、文化の分野で大きな足跡を残しています。歌人として京の貴族たちも驚くほどの技量を持ち、『新古今和歌集』の選者である藤原定家に師事し、『金槐和歌集』も著しています。

しかし大河ドラマでも触れられなかった実朝の文化における功績がもう一つあります。それは「お茶」を広めたことです。

かなりのお酒好きだった実朝に、中国から帰国した禅僧、栄西は抹茶を飲むようにすすめ、それが実朝の健康に貢献したことから、武家社会に「喫茶」の習慣が広まったと伝えられています。

先日、そのお茶にゆかりの深い鎌倉の地に立つ、鶴岡八幡宮境内の直会殿(なおらいでん)で「古都鎌倉と茶の湯のこころ」という催しが開催されました(主催:鎌倉日仏協会)。

京都の茶人で、千利休の専門家としても知られ、『利休入門』『一日一菓』などの著書もある木村宗慎さんを招き、鎌倉日仏協会の会員であり、作家でパリの生活が長かった村上香住子さんがお話を伺うという趣旨でした。

実は、先に書いた実朝の話も、当日、木村さんが話されたことを要約して書かせていただきました。

さて、木村さんと村上さんですが、「marie claire」誌とも縁が深く、木村さんは本誌2018年3月28日号の村上さんの連載エッセイに登場されています。

木村宗慎
茶人・木村宗慎さん

おふたりは20年来の友人。村上さんは、フランスから帰国するたびに、京都の木村さんのお茶室での除夜釜に参加していたそうです。村上さんが伴ったフランスからのお客様たちも一緒にお茶をいただき、そのあとは京都のほかの茶室でも催される除夜釜を木村さんに案内してもらいながらめぐり、皆で新年を祝ったという楽しい経験もしたそうです。

そんなおふたりの対話の中で、私の心に特に残ったエピソードをご紹介します。

ジェーン・バーキンの装いから考える茶の湯

京都・大徳寺といえば、侘び、さびを感じることができる塔頭「龍源院」の庭園や、塔頭「黄梅院」の「直中庭」(千利休作庭)が有名です。由緒ただしく権威もあるこのお寺でのお茶会に、村上さんはジェーン・バーキンと娘のシャルロット・ゲンズブールを伴ったそうです。もちろん木村さんが案内役でいらしたから実現した機会だったのですが、そこにあらわれたジェーン・バーキンの服装は黒のあちこちに穴の開いたシャツとジーンズ。およそ茶会にはそぐわないスタイルで、正式な服でと彼女に事前に伝えていた村上さんは、とても驚いたそうです。が、そんな村上さんにジェーンは「クローゼットの中にある唯一の父親の形見の大事なシャツ。だからこそ、この茶席に着ていくのに最もふさわしいと思った」と説明したそうです。

直会殿 木村宗慎 村上香住子
直会殿での木村宗慎さんと村上香住子さん

木村さんも指摘なさっていましたが、これは、お茶とはなにかを考えるうえで、とても深いエピソードであると私は思いました。お点前の美とか、お茶席のルールとかはもちろん大事なことですが、何を最も大事にして、誰とそのお茶をいただくのか、ジェーンの言葉はそれを考えさせるものだと思いました。ジェーンにとっては、亡き父の大切な服こそ、心をしずめてお茶をいただくのにふさわしい正式な服だったのでしょう。

村上さんと木村さんの対話はこのエピソードにとどまらず「本質的な意味でのお茶とはなにか」を考え、そこから茶道への関心をもつきっかけを与えてくれるものでした。お茶の心得のない私でさえ、茶室という空間芸術の中で一服のお茶を、木村さんにたてていただいてみたくなりました。

2023年5月25日

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