H&M PR室井麻希さん「手をつなげる場を作る」　子育てと仕事を両立し新たなチャレンジへ

そんな先人たちの話を聞く連載「ネクストステージ」。第4回はH&M PRコミュニケーション・マネージャーの室井麻希さんにフォーカス。H&Mに勤続しながら開いた2つの扉とは？

子どもたちのために、手と手をつなぐボランティア

H&MジャパンのPRをメインに日々精力的に働きながら、2児の母として子育てにも励む室井さん。その傍ら、2019年から児童養護施設や支援が必要な一人親世帯の子どもたちにクリスマスプレゼントを贈るボランティアをしている。2020年には「tetote～サンタプロジェクト～」として、賛同する人が集まり活況を呈している。

「第１子が産まれてから、クリスマスプレゼントを買う経験がスタートしました。インスタグラムでは、その時期、クリスマスツリーの下にたくさんのプレゼントがある投稿を目にした一方で、サンタさんが来ない子どもたちがいることも聞いていたので、そのバランスが良くなるといいなと思ったんです」

室井さんたっての願いで、夫婦は児童養護施設を訪れた。クリスマスには児童養護施設にケーキ店からケーキが届き、プレゼントも届く。ここに何かできることがあるのでは……。

「当時、長男は4歳だったんですが、すでに自分の欲しいおもちゃがあって、それ以外のおもちゃには興味がなかったんです。施設によっては、必ずしも自分がほしいプレゼントがもらえるわけではないことを知りました。それで児童養護施設にいる子にも一番欲しいプレゼントを贈るためボランティアでサンタさんを募って、『大人１人（サンタさん）：子ども１人』をマッチングさせる仕組みを考えたんです」

いくつかの児童養護施設に連絡をとったところ、神奈川県茅ケ崎市にある施設が手を挙げた。1年目の2019年は36人の子どもたちとサンタをマッチング。自身のインスタグラムで募集をしたところ、あっという間に賛同者が集まった。H&Mの社長もこのサンタプロジェクトに好意的で、同社の社員数人もサンタになっている。

2年目は規模を拡大させるため、インフルエンサーやSNSが得意な友人の協力を得て、プレゼントを贈れた子どもの数は127人に。そして、ここでの友人２人と「みんなで手をつなげますように」という思いを込めて、任意団体「tetote～サンタプロジェクト～」を作った。

さらに児童養護施設の子だけでなく、経済的な理由でサンタが来ないひとり親世帯や貧困家庭をサポートするためNPO団体に声をかけて、3年目は150人、4年目は563人と年々大きくなっているが、室井さんは「氷山の一角。まだまだマンパワーもサンタさんの数も足りていない」と言う。

「ブルドーザー」と呼ばれて

室井さんは高校時代に国連で働くことを夢見てICU（国際基督教大）へ進学、悩みながらも早く社会に出たいと一般企業に就職。退職後にはモデル活動をしながらアジアを巡り、新たに就職、そして転職して今に至る。そんななかいつも頭から離れなかったのは、途上国の現状や日本の貧困について。まるで人生の使命のように感じることがあると室井さんは言う。

聞くと、自身はクリスマスに特別な思いを持った子どもだったわけではなかった。「小学3～4年生のころ、栄養失調でおなかが出た子どもの映像を見て号泣、自分の部屋に上がって作文を書くような子でした。どうにかしなきゃいけないのに、私はあったかい部屋でご飯食べて何してるの？って。たぶん“自分ごと”にしやすい性分なんだと思う」と振り返り、目に涙を浮かべる。

「あとは母親からの影響はすごくありますね。母は、ホームレスの人におにぎりを作って持って行ったり、家族の断りもなく自宅のお風呂を使わせてあげてたりしていたんです。当時の私は思春期でお風呂のにおいが気になって嫌だったんですが、お構いなし。今の私はまだまだ母には及びません」

働きながら子育てや家事もして、ボランティアもがんがん進めてきた室井さんは、本人いわく「“こうだ”と思ったら止まらないタイプ。ブルドーザーって呼ばれています（笑）」。止めても聞かないと知っている夫は、そんな妻を受け入れている。

さて、「仕事でも家庭でも時々、いや、よく暴走しちゃう」という室井さん、彼女が開いた扉はサンタプロジェクトだけで止まるわけがなかった。