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【鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」】カマンベールチーズ、熟成後の匂いは?

春は別れの季節……

フランス文学者の鹿島茂さんが愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともにお届けするこの連載も今回が最終回。有終の美を飾るのは、フランス人が愛してやまないあの食べ物について──。(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)

禁欲を旨とする修道僧が、じつは……

さて、フランスパンで始まったこのコラムもこれが最後。食事の順序と同じく、締めくくりはチーズでいくことにしよう。

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チーズの起源は遠くシュメール人にまでさかのぼるが、フランスのチーズもフランスそのものと同じくらい古い。というのも、チーズは、西ローマ帝国崩壊後も修道院で作り続けられて、かのシャルルマーニュも大のチーズ好きだったと伝えられているからだ。

実際、チーズの名称は、大昔の修道院の名前にちなんだものが少なくない。「美(うま)し国」フランスでは、禁欲を旨とする修道僧がまっさきにグルメとなってチーズに舌鼓を打っていたのである。

しかし、貴族文化の18世紀にはチーズは危うく見捨てられそうになった。なぜなら、西インド諸島から輸入された砂糖の影響で甘い菓子が流行し、デザートとしての地位を奪ったからである。ところが、19世紀になると、チーズのないデザートはデザートでないとするブリヤ=サヴァランの影響か、チーズは奇跡のリヴァイヴァルを遂げ、フランス人の食卓には絶対に欠かせないものとなる。

Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰

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