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今、最注目のフランス女優、アデル・エネルの魅力が全開

アデル・エネル(c)Thomas Laisné/Contour by GettyImages

【10月15日 marie claire style】シャーリーズ・セロン、ブリー・ラーソン、グザヴィエ・ドランら今を煌めく映画人が大絶賛し、昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した仏映画『燃ゆる女の肖像』が、12月にいよいよ日本で公開される。そのヒロインを務めるのが、仏版アカデミー賞にあたるセザール賞2冠の実力派で、今、フランスで最も注目を集める女優、アデル・エネル。175cmというモデルのようなスタイルと、強い意志を持つ瞳が美しい彼女に、最新映画の魅力について聞いた。

 スマートフォンはもちろんのこと、カメラさえもなかった18世紀、ヨーロッパの貴族は子女の肖像画をお見合い写真の代わりに使った。『燃ゆる女の肖像』は、1枚の肖像画をめぐり女性画家と貴族の娘の恋愛を描く、仏新鋭女性監督のセリーヌ・シアマによる最新作だ。ヒロインを演じるアデル・エネルのために、監督自身が執筆した脚本の映画化となる。「素晴らしい作品になる可能性を秘めていて、責任は重大だと感じた」とアデルは初めて脚本を読んだ時のことを振り返る。「監督のセリーヌと長い間コラボレーションしてきたから、これは私にとって非常に特別な作品。彼女がいかに私を信頼してくれているかの証しだから」

 12歳でデビューしたアデルは、シアマ監督の『水の中のつぼみ』(2007年)に出演し、その演技が高い評価を受け、若くしてセザール賞にノミネートされた。以後公私ともに2人はパートナーになり、2014年、同賞の授賞式でそのことをカミングアウトした(現在は別離)。現在31歳だがすでに20本以上の映画に出演し、フランスを代表する若手女優として愛されている。また、昨年は若い時に映画監督からうけたセクハラを告発したり、今年2月にはロマン・ポランスキー監督のセザール賞最優秀監督賞授与に抗議したりと、フランスの「#MeToo」運動の牽引役としても知られる。

 最新映画の舞台は18世紀の北フランス、ブルターニュにある孤島。貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画の制作を依頼された画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、散歩相手を装いひそかに肖像画を完成させるが、本人が出来栄えを否定。そこでマリアンヌは5日間で描き直したいと申し出る。その間に2人は心を開き合い、友情が芽生え、いつしかそれ以上の感情へと発展する。

「同性愛についての映画なの。一方が支配する男女の恋愛とは異なり、同等の2人の恋愛である点が重要。そこから特別な恋愛感情やエロティシズム、イマジネーションが広がっていく。リハーサルはなく、自分の台詞の中に新しいメロディーを創り上げた。エロイーズが受動的存在から能動的存在へと変わっていく旅をアーティスティックに追求したかったの」

 姉の死後、修道院にいたエロイーズは自宅に戻された。姉の代わりに嫁ぐことを強いられるが、それをどうしても受け入れられないのだ。「エロイーズは婚約者について一切知らない。自分の人生なのに、なぜ自分には決定権がないのか、と感じている。結婚を避けようとするのは、自分とは関係なく回る世の中に対する彼女なりの反逆なの」

 一方、画家として自らの人生を歩むマリアンヌ。現代的な女性に映るが、実際に18世紀ヨーロッパには女性画家が多く存在した。歴史から消された彼女たちの存在に光を当てる、という点も重要だ。「18世紀を現代的に解釈したように映るかもしれないけれど、史実は変えていない。監督のセリーヌは努めて史実を曲げずに異なる視点、新しい感情表現で見つめた。だからこの映画は現代的に感じられるのだと思う」

 本作は恋に陥る時の言い尽くしがたい心境を描く繊細な恋愛映画であると同時に、結婚やキャリア、妊娠中絶や食生活、喫煙、文学、音楽など、日常を女性の主観で力強く貫くフェミニズム映画、社会的な映画だとも言える。監督自身がニーチェを引用しラテン語で書き下ろした歌詞が女性コーラスで繰り返される印象的なテーマ曲やヴィヴァルディの音楽、古城やシンプルだが優雅な衣装、絵画のようなブルターニュの海岸景色、すべてがこの上なく美しく、胸をしめつける。

■映画情報
『燃ゆる女の肖像』
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演:アデル・エネル、ノエミ・メルラン
公開日:2020年12月4日(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/portrait/

(c)marie claire style / cover photo: Thomas Laisné /Contour by GettyImages / photos: Julien Mignot/Contour by Getty Images / Interview & text: Yuko Takano

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