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ガブリエラ・ハーストが導く「クロエ」のサステナブル&ラグジュアリーな未来

ファッション業界とファッションビジネスを再考すること。それはデザイナーのガブリエラ・ハーストが自ら定めた使命だ。2020年12月より「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターに就任した彼女は、持続可能な産業作りと環境問題、そしてコレクションについてどのように考えているのか? NYマンハッタンのオフィスで話を聞いた。

ガブリエラ・ハーストは彼女の人生を通じて、自らの恐れとその克服方法をメモする「Wish Book(願いの手帖)」と名付けたノートに様々なことを書き出している。中でも地球温暖化を防ぐことは彼女にとって大きな課題だ。地球上で最も汚染された産業の一つとされるファッション業界で、彼女は2015年以来、ラグジュアリーとサステナブルなもの作りを調和させる方法を探っている。

今年創業70年を迎えようとする「クロエ」ですが、あなたはこのブランドでどのようなプロジェクトを遂行中ですか?
「クロエ」の美的言語は私にとって非常に自然で、私はそれを理解し愛しています。このブランドは私にとって重要な課題、サステナブルな問題に専念するためのリソースを多く与えてくれています。二酸化炭素排出量を削減しながら、ブランドを成長させることは可能なのか? という課題です。この大きな課題に立ち向かうという使命が私を駆り立てるのです。

「クロエ」では環境汚染を減らすためにどのような具体策を行っていますか?
最初のステップは素材を見直すことでした。どの素材が環境によい影響を与えるかを知ることです。綿農家で除草剤や農薬を使用することにより、昆虫の大量絶滅をまねいてます。一方、リネンは実際に種子を食べることもできるという栄養上の利点だけでなく、繊維にする時に消費する水が少なくすむという点からも、綿より優れています。

「クロエ」の顧客たちは服の製造工程を知りたがっていると思いますか?
人々は欲望から服を買い、美しさを求めているのです。ただ現在は、それに加えて作り手の誠実さが求められ、製造工程に関してもより透明性を期待されています。人々は環境に配慮していない商品を買うことで、罪悪感を抱きたくないのです。それは最終的に消費者自身が責任を問われることになるからです。

「クロエ」ではどのようにして製造工程に透明性を持たせていますか?
ライフサイクルアセスメントの専門家である「Quantis(クアンティス)」社と協力しています。彼らの評価によると、弊社の環境に配慮したスニーカー “Nama(ナマ)”は、以前のモデルよりも80%水を節約し、二酸化炭素の排出量を35%少なくしています。我々が本当の違いを生むことができるのは、スニーカーのような大量生産の場合です。

環境問題を超えて、例えばあなたのコレクションに貢献する職人たちに対して、何か人的側面での取り組みはありますか?
私にとって環境活動と社会活動は切り離せない要素です。私は2022年春夏のショーを大変誇りに思っています。7つのNGOがショーに貢献し、セットはエコ建設技術を訓練する協会がアフリカの女性建築作業員を起用して泥レンガで作り、シューズは海に捨てられたビーチサンダルをリサイクルするケニアの団体「オーシャン ソール」とのコラボレーションにより実現しました。

絶え間ない新しさへの欲求に応えるファッション業界で、真のサステナブルは可能なのでしょうか?
ファッション業界がクローズアップされがちですが、経済全体を再考する必要があります。地球温暖化は産業革命の結果です。長期的には、循環型経済が資本主義に取って代わるでしょう。私たちの天然資源が枯渇していることは事実なのです。

あなたの人生の中でこの不安はいつ始まりましたか?
2017年にアフリカに旅行した時です。私はそこで気候変動による人々の生活の荒廃を目の当たりにしました。非常に激しい干ばつに苛まれ、人々が乾ききった川沿いを8時間歩き、2リットルの泥水をやっと汲み上げる現状を見ました。当時、ファッション業界の人たちは地球温暖化について話してもいませんでした。

自然界への愛は、ウルグアイの牧場で過ごした子ども時代に遡りますか?
はい。正直なところ、私はほぼ産業革命前のような環境で育ったと思います。私の家族は200年間ずっと農業を続けています。牛はオーガニックな牧草で育てられ、生物は乱獲されず、土地は自然再生のために残されています。今、誰もが環境再生型農業を素晴らしいイノベーションだと語っていますが、それは私の育った環境では常識だったのです。

両親はあなたにどのような価値観を伝えてきましたか?
私の家族が5世代にわたり生き残ることができたのは、すべてをリサイクルし、何も無駄にしないという、その価値観のおかげです。父はペンキの空き缶ですら捨てずに、馬の水やりに使っていました。最寄りの店は家から2時間半の距離で、私たちが今住んでいる便利な世界とは真逆の環境でしたが、ものの大切さを教えてくれました。

あなた個人として地球環境のためにどのような努力をしていますか?
私には子どもが3人いて、責任感を持って育てています。彼らはこれから自分たちが継承する世界をよりよくするために何をすべきかということについて、非常に明確なビジョンを持っています。彼らの世代は、ブランドだけでなく、ジェンダーや人種的な問題についても異なる見方を持ち、違いをより尊重しています。子どもたちは私に多くの希望を与えてくれるのです。

ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)
「クロエ」クリエイティブ・ディレクター (photo: Michael Avedon)

ウルグアイ出身。父親の牧場経営を引き継いだ後、2015年フォールコレクションで自身の名を冠したブランドを発表。18年、セーブ・ザ・チルドレンの評議員に指名され、19年9月にNYで発表したコレクションでは、史上初めて、カーボンニュートラルのランウェイショーを成功させた。20年には、CFDAファッション・アワードでアメリカン・ウィメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、同年、英国ファッション協会のファッション・アワードで環境賞を受賞。20年12月、「クロエ」のレディ・トゥ・ウェア、レザーグッズ、アクセサリーのクリエイティブ・ディレクターに就任。

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