パリで発表された2026−27年秋冬オートクチュールは、歴史あるメゾンがその核となる美意識を見つめ直し、新たなクチュールの言語へと翻訳したシーズンとなった。おとぎ話、彫刻、身体と建築、女性の私室──それぞれの視点から手仕事の可能性を押し広げた、シャネル、ディオール、バレンシアガ、ジョルジオ アルマーニ プリヴェの4ブランドを振り返る。
「シャネル」のファッション部門アーティスティック ディレクター、マチュー・ブレイジー。2度目のオートクチュールとなる今季は、ガブリエル・シャネルと自身との対話を続けながら、コレクションを一冊のおとぎ話のように描き出した。着想源となったのは、『ジャックと豆の木』や『3びきのくま』、『オズの魔法使い』といった私たちにもなじみのある童話たち。
Copyright CHANEL
ツイードには花が咲き、ヒールにはつたが絡み、ブレードにはカササギとその宝物が潜む。『オズの魔法使い』のかかしを思わせるルックでは、ラフィアを麦わらのように仕立て、デニムに見えるブルーのツイードをルサージュが織り上げた。五つのジュエリーボタンは、ひまわりが種から花開くまでを表現。軽やかなウールガーゼのスカートには手作業でプリーツを施し、イチゴやホオズキを刺しゅうした。メゾンを象徴するベージュは、キャメルやオーツのニュアンスへと広がっている。
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ガブリエル・シャネルを想起させる手をポケットに入れたローライズのシルエットは、メゾンのコードを現代の女性の日常へと引き寄せる。一方、服の内側には、着る人のイニシャルや「やることリスト」といった私的なディテールを忍ばせた。卓越した職人技が生む幻想を、あくまで女性自身の物語へと結びつけた、親密で温かなクチュールだ。
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ジョナサン・アンダーソンが「ディオール」で手がける2度目のオートクチュールは、アメリカの彫刻家リンダ・ベングリスの作品との対話から生まれた。3次元の素材を結び、プリーツ、造形によって3次元へと変えるベングリスの制作と、生地に立体的なフォルムを与えるクチュール。その親和性を起点に、ハンドプリーツやノッティング、ドレーピングを発展させ、メタリックや玉虫色、紙のような質感、柔らかなシルバーのネットを服へと落とし込んだ。
Courtesy of Dior
ベングリスが長く関わってきたインド・グジャラート州アーメダバードも重要な着想源。「ピーコック」シリーズは鮮やかな花柄とビーズ装飾に、18世紀のチンツは「プティ ディネ」や「レディ ディオール」ミニへと再解釈された。乾燥した空気が広がるニューメキシコ州サンタフェと、豊かな自然をたたえるアーメダバード。ベングリスが暮らし、制作してきた対照的な二つの風景が、フローラルモチーフや鮮やかな色彩の中で交差する。
Courtesy of Dior
その探求は、バッグにも一貫している。マザーオブパールの象嵌(ぞうがん)やパスマントリー、きらめくレザーを用い、メタリックなプリーツの「ディオール シガール」、彫刻的なフォルムの「ディオール ボウ」、新作の「レディ ディオール」、ベングリス作品を思わせるリボンを飾った「プティ ディネ」の4型をアーティストとの協業によって制作した。
Courtesy of Dior
シューズもまた、ベングリスの作品に見られる光沢や質感を映すもの。細長いスクエアトゥのサテンパンプスを軸に、不規則なパイエットやマイクロスパンコール、ビーズ、フローラル装飾を展開。「ピーコック」に着想を得たシースルーパンプスや、プリーツ加工したメタル製リボンのデザインも登場した。服から小物までを“身につける彫刻”として貫いた、アンダーソンの実験精神が光るコレクションだ。
会場のロダン美術館では、新作とディオールのアーカイブ、ベングリスの彫刻を集めた展覧会「Grammar of Forms」も開催された。アトリエを“実験室”として、素材とフォルムから新しい現実を探ったコレクションとなった。