「本当のサステナビリティとは、長く着ること。」──そう語るのは、日本に上陸したばかりのブランド「Ain Amor(アイン アモア)」デザイナー、Sophia Lewis(ソフィア・ルイス)。ジル サンダーでキャリアを積み、上質な素材や仕立てへの哲学を受け継ぎながら、自身のブランドではリバーシブルやジェンダーフルイドなデザインを通して、一着を長く愛用できる価値を提案している。ブランドに込めた思想と、ものづくりへの揺るぎない信念を聞いた。
「Ain Amor」という名前は、ドイツ語で「ひとつ」を意味する「ein(アイン)」と、ヘブライ語で「目」を意味する「ayin(アイン)」、そしてフランス語で「愛」を意味する「amor(アムール)」を組み合わせたものです。
服を目にしたとき、あるいは実際に身にまとったときに、目と心の両方が反応する。つまり、「目にしたものを愛する」という感覚を表現しています。
ブランドの中心にあるのはアウターウェアです。特に秋冬はウールやダブルフェイスの素材を使ったコートを中心に展開しています。春夏にもアウターに力を入れていますが、一着により大きな価値を持たせるため、リバーシブルのデザインを積極的に取り入れているのが特徴です。
私たちが目指しているのは、上質な素材や仕立てを保ちながら、より多くの人が手に取れる価格で届けること。主にイタリア製や日本製の生地を使い、品質と価格のバランスを大切にしています。
また、一着をさまざまな着方で楽しめることも重要です。日常の異なる場面で着られ、さまざまな服と組み合わせることができれば自然と着用する回数も増え、長く愛用できること自体が、服の価値につながると考えています。
──リバーシブルやジェンダーフルイドなデザインも、ブランドを象徴する要素なのでしょうか?
そうですね。リバーシブルの服であれば、表と裏で異なる二つの表情を楽しめます。単に一着で二着分というだけでなく、着る人自身が、その日の気分や場面に応じて選択できることが大切です。
また、Ain Amorでは、性別を限定しないジェンダーフルイドなデザインも意識しています。袖口を折り返すことで長さを調整できるなど、異なる体型の人が自然に着られる工夫を取り入れています。
そうすれば一着の服をパートナーと共有することもできますよね。私はよく「Sharing is caring(分かち合うことは、思いやること)」と言っていますが、服を誰かと共有することも、ものを長く大切に使う方法の一つだと考えています。
──サステナビリティを意識するようになったきっかけを教えてください。
私は以前から、「長く着られる服をつくること」が、本当の意味でのサステナビリティだと考えてきました。
良いものを選び、それを何度も着る。ワードローブの中にあるさまざまなアイテムと組み合わせながら、長く使い続ける。そうした姿勢をずっと大切にしています。
先日、久しぶりにジル・サンダー本人と会う機会がありました。そのとき私が履いていたのは、約20年前、ジル サンダーで働いていた頃に購入した靴。私は彼女に「これこそが、本当のサステナビリティだと思います」と話しました。
服は何年も着ることができますし、やがて子どもに譲ったり、大切な人に贈ったりすることもできます。必要がなくなれば、リセールすることもできる。そうやって一着の寿命を延ばしていくことが、ファッション業界に対して私たちができる、とても現実的な貢献だと思っています。
私たちは生きるために服を必要としています。寒さや暑さから身体を守るためにも必要ですし、ファッションは自己表現でもあります。
ただ、食べ物を必要以上に摂取することが身体によくないのと同じように、服も過剰に消費することが良いとは思いません。大切なのは、何かを買うこと自体ではなく、買ったものをどう使い続けるかです。
若い世代を中心に、本当に良いものを選び、長く使いたいという意識は確実に広がっていると感じます。
──サステナビリティに関して、製造面や素材面ではどのような取り組みを行っていますか?
生地については、ファブリックメーカーが保有しているストックファブリックも活用しています。立ち上げ間もないブランドにとって、少量から柔軟に生産できることはとても重要ですし、必要以上につくらないことにもつながります。
一方で、素材メーカーに会う際には、リサイクル素材や水の使用量を減らす技術など、どのような新しい開発を行っているのかを必ず尋ねるようにしています。
特にイタリアの生地メーカーは、環境に配慮した素材や技術の開発にとても積極的です。デザイナーには、質問を続け、学び、自分自身の知識を更新していく責任があると思っています。
最初からすべてを完璧に実現することは難しくても、より良い選択肢を知り、少しずつ取り入れていくことはできます。ブランドの成長とともに、今後さらに新しい素材や技術も導入していきたいです。
──洋服に取り付けられているハングタグにも、Ain Amorらしい仕掛けがあるそうですね。
はい。服を購入したあとに捨てられてしまうのではなく、別の用途で使えるハングタグをつくりました。
一部を取り外すと、スーツケースやバッグにつけるラゲージタグとして再利用できます。とても小さなことですが、本来捨てられるものに新しい役割を与えるという考え方です。
サステナビリティは、大きな技術や素材だけで実現するものではありません。こうした細かな工夫を積み重ねることも大切だと思っています。
最も大きな影響を受けたのは、素材に対する姿勢です。
ジル・サンダーは、生地に対して並外れたこだわりを持っていました。まさに、素材に取りつかれていると言ってもいいほどです。私はそこで、生地を見ること、触れること、そして素材からデザインを考えることを学びました。
当時はチームがとても小さかったため、若いうちからデザインだけでなく、ものづくりのさまざまな工程に関わることができました。
ドイツ語には、最初の仕事がその人に強い刻印を残す、という意味の表現があります。私にとってジル サンダーでの経験は、まさにそういうものでした。今の私のデザインDNAの多くは、そこで形成されたと思います。
その後は、スポーツウェアやデニムなど、洗い加工を取り入れたカジュアルな分野でも長く経験を積みました。それでも、上質なイタリア製の生地を使ったコートやアウターへの思いは、キャリアの最初からずっと自分の中にあります。
また、ジル サンダーは縫製にも非常に厳しく、一定の長さの中に何針入れるかということまで細かく定めていました。そのような細部への注意や品質への執着は、現在のAin Amorにも受け継がれています。
──日本で本格的に展開される初となるコレクションである、27SSコレクションのポイントを教えてください。
今季も、ブランドの核であるアウターやリバーシブルのアイデアを継続しています。
レザーはコレクションの重要な要素の一つで、ヨーロッパ産の原皮をヨーロッパでなめした素材を使用しています。レザーとコットンを組み合わせたデザインや、メンズ、ウィメンズのどちらにも対応できるアイテムも展開しています。
また、雨の日にも使える撥水性のある素材や、軽く羽織れるトレンチタイプのアウターも取り入れています。
私たちが考えているのは、一着の服にどれだけ多くの可能性を持たせられるかということ。着方や用途が増えれば、その服はより長く、日常の中で活躍できます。
私は日本の人たちの服の着こなしが本当に好きです。日本の街を歩く人たちを見ていると、Ain Amorの服が自然に溶け込む姿を想像できます。
また、ジル サンダーが日本で長く支持されてきたことも知っています。私自身のデザインの原点には、その時代に得た経験が深く根付いているので、日本のお客様にも共感していただける部分があると思っています。
日本の方々は、生地の品質や縫製、細部の仕上がりをとてもよく見ています。イタリア製の上質な素材を使うこと、細かなディテールまで丁寧につくること、そして長く着られる服を届けること。そうしたAin Amorの価値観は、日本市場との親和性が高いと感じています。
リバーシブルという機能も、単なる仕掛けではなく、適正な価格の中で服の価値を高めるものです。品質と実用性の両方を大切にする日本のお客様には、受け入れていただけるのではないでしょうか。
──最後に、ブランドとして最も大切にしていることを教えてください。
今のファッション業界では、SNSやコンテンツ制作、マーケティングに非常に大きな力が注がれています。時には、デザイナーの技術よりも、SNSのフォロワー数のほうが注目されることさえあります。
もちろん、マーケティングは必要です。ただ、最終的にお客様が購入し、毎日身につけるのはマーケティングではなく、服そのものではないでしょうか。
お客様は服に触れ、着心地を感じ、品質を確かめます。価格と品質のバランスが正しいかどうかも実際に着れば伝わり、消費者は決してごまかせません。だからこそ、Ain Amorでは、まずプロダクトに力を注ぎたいと考えています。
上質なイタリア製の生地を使い、優れた工場で丁寧につくり、その価値に見合う適正な価格で届けること。お客様に「この価格には納得できる」と感じてもらえること。
マーケティングではなく、服そのものがブランドの価値を語る。Ain Amorは、そういうブランドでありたいと思っています。
photo: Tomoko Hagimoto, text: Azu Satoh