2026~27年秋冬のパリ・ファッションウィーク(パリコレ)が3月2日から10日まで開催されました。期間中、パリ市内各所でショーや展示会なども行われました。ファッションだけでなく、街で見かけた様々なモノやコトをつれづれなるままにつづります。
ジュンヤ・ワタナベ
パリ・ファッションウィークの土曜日といえば、「コム・デ・ギャルソン・デー」。コム・デ・ギャルソン傘下の3つのブランドがショーを行うのが定例となっています。
この順番も決まっており、トップバッターは「ジュンヤ・ワタナベ」です。

テーマは「The Art of Assemblage Couture」。「Assemblage(アッサンブラージュ)」とはフランス語の「寄せ集め」。ピアソラの「リベルタンゴ」が流れる中、モデルが登場。羽織っているコートを椅子にかけ、現れたのは黒いドレス。よく見るとバイカーの手袋などを寄せ集めたよう。


官能的で退廃的な雰囲気という点では、かつてのジョン・ガリアーノのショーと共通するものがありました。でも、使っている素材が普通じゃない。ぬいぐるみもあれば、定規もあります。前シーズンからつながる素材の使い方です。まさに「アッサンブラージュ」。毎日の暮らしの中にあるような何げない素材を使いながら生み出される新たな美しさに感服。
見ている人たちはどんどん引き込まれ、ショーの終了と同時に拍手が鳴りやまず。隣に座っていた男性の「Just love it!(最高!)」のひとことが、すべてを言い表していました。
ノワール・ケイ・ニノミヤ

会場には、歌手のMISIAさんの姿が見えました。MISIAさんは昨年の紅白歌合戦で「ノワール・ケイ・ニノミヤ」のドレスを着ていました。「写真、いいですか」とうかがうと笑顔で「いいですよ」と言ってポーズをとってくれました。

テーマは「DARK BLOOMING」。時にパンクであり、時にダーク。そして、時に詩的。星や花などのモチーフを使いながらもメルヘンチックにはならない。予測のつかない服を出してくるのが「ノワール・ケイ・ニノミヤ」の特徴です。


髪を編み込んだヘッドピースは変化していき、猫や犬、リスまで載っていて、目がくぎ付けに。ブランドの得意とするパーツをつなげたドレスなどは毎シーズン、パーツの形も組み合わせも変わっていきます。きれいだなあという思いにひたっていると、登場したのはふわふわした雲のような服。しかも色は赤と黒で、顔が見えます。突然雲がむくむくと大きくなって顔のようになっていくというファンタジー映画のよう。絶対に予定調和にならない。ダークなファンタジーの世界を満喫しました。
エルメス

会場は、フランス共和国親衛隊本部。薄暗い会場に足を踏み入れると、そこは一面の苔(こけ)。湿気を帯びた苔の香りがしました。
夕暮れから夜へと移り変わっていく境界がテーマです。日暮れ時の夕日の色から空が群青色になり、緑は深く。そんな山の中を歩いていくというイメージです。


ボディコンシャスなデザインが多く、ポロニットにネクタイというスタイルなども新鮮。オストリッチ(ダチョウ)の革が服にふんだんに使われているのも今季の特徴です。ジャンプスーツにまで取り入れられていたのはちょっと驚きでした。


細部にはエルメスらしい乗馬の世界が随所に見られます。サドルの形のポケットのほか、フロントスリットも乗馬をするという観点から入れているもの。全体に強いというよりもたくましい女性像がベースになっているように思えました。
エルメスは派手なアイコンもロゴも使いません。でも、エルメスとわかる。服の色がいつも美しく、デザインはシンプルでありながら、実は細部にまで職人の技と馬の世界が凝縮されています。また、このブランドは誰かが目立っているというわけでもありません。エルメスのものづくりにかかわる人たちがみんなでそのDNAを、そして楽しさまでも共有していることが伝わってきます。
帰り際、親衛隊本部の馬に遭遇!
コム・デ・ギャルソン
「Ultimately Black」が今回のテーマ。訳すと、「究極の黒」。コレクションのメモには「最終的に行き着くところは黒」とありました。「コム・デ・ギャルソン」がパリでデビューした1981年から、黒はずっと川久保玲さんの色でした。

クラシック音楽の流れる中、登場した黒の服の数々は、布を幾重にも重ね、ひねり、結び、ギャザーやプリーツ、ドレープやフリンジなどで形作られています。それらは、私たちの持つ「服」の常識からはかけ離れ、「スカート」「ドレス」など具体的な名前では表現できないものばかりです。今回、薄いジョーゼットを使うことにより、モデルの動きに合わせてゆらめく様子は、優しさや柔らかさが感じられる黒の新たな表現にも思えました。

途中に登場した明るいピンクの服は黒を強調するため、あるいは希望への道筋としてなのでしょうか。

川久保さんはすべての思いを服に込め、多くを語りません。黒は美しさも強さも表現できる色であり、川久保さんにとって最大の武器でもあるのです。
戦争が世界各地で起き、格差や差別はなくならない。ファッションを取材し続けて40年近くになりますが、厳しい状況の中で服にいったい何ができるのかと懐疑的になることがあります。川久保さんは美しさを問い、常識を問うことで闘い続けています。
text: Izumi Miyachi
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