創業者の精神をまとう─ブシュロンの新ハイジュエリーコレクション
ブシュロンは2026年1月、新作ハイジュエリーコレクション「Nom : Boucheron, Prénom : Frédéric『フレデリック・ブシュロン』」をパリで発表した。1858年にメゾンを創業して以来、時代を先取りしてきたフレデリック・ブシュロンの名を冠する本コレクションは、四つの章で構成される。クリエイティブディレクターのクレール・ショワンヌがアーカイブ作品を再解釈し、フレデリックの先進的な精神を象徴する四つのマスターピースとして形にした。
ヴァンドーム広場の先駆的存在-THE ADDRESS
1893年、当時まだ静かな住宅地区にすぎなかったパリ・ヴァンドーム広場にいち早くブティックを構えたジュエラーがブシュロンだ。ヴァンドーム広場はその後、名だたるジュエラーがブティックやアトリエを擁し、現在ではハイジュエリーの象徴的な場所として位置づけられている。
クレールは、広場の八角形をかたどったアーカイブのネックレスを着想源に、新作「アドレス」ネックレスを手がけた。ブラックラッカーが輪郭を縁取り、ダイヤモンドとホワイトゴールドの白がより鮮明に立ち上がる。中央には10.01カラットのタイプⅡaエメラルドカットダイヤモンドが配され、バゲットカットやラウンドカットのダイヤモンドが周囲を取り囲み、多層的な輝きを放っていた。
「アドレス」ネックレス
留め具のないネックレス-THE SPARK
フレデリックは1879年、当時の宝飾界では当たり前だった留め具(クラスプ)を排除した、女性たちが自らの手で首へ滑らせるように装着できるネックレスを発案した。そのフォルムから「クエスチョンマーク」とよばれたネックレスは、身につける人の動きを起点に設計された構造が評価され、1889年のパリ万国博覧会でグランプリを受賞している。
クレールは、1884年のクエスチョンマーク ネックレスをもとに、繊細な可動構造を取り入れた新作「スパーク」ネックレスを発表した。純粋なクエスチョンマークのフォルムをそのままに、異なるカットが施された8石のダイヤモンドが絶妙なバランスで連なる。身につける人の体に沿うようなしなやかさが光った。
「スパーク」ネックレス
しなやかな構造が快適な着用感を実現する
クチュールの感性-THE SILHOUETTE
織物商の家系に育ったフレデリックは、ジュエリーを単なる装飾品としてではなく、装いの延長線上の、スタイルを構成する要素の一つと捉えていた。特に重視したのがマルチウェア作品で、パーツを取り外して変化する作品を数多く生み出した。
「シルエット」ネックレスは、こうした感性を継承している。チョーカーと組み合わせた2対のダイヤモンドの連なり(ストランド)が両肩を覆うスタイル、肩章のようなショルダージュエリーなど、6通りの着け方を楽しめる。
「シルエット」ネックレス
ありのままの自然を捉えて-THE UNTAMED
自然は多くのジュエラーが表現したモチーフであったが、フレデリックはその様式化された美しさよりも、不完全さをも含むありのままの姿に傾倒した。デザインに取り入れられた植物の一つが、あらゆる方向につるを伸ばしていくアイビー(ツタ)だ。
クレールは、初期のクエスチョンマーク ネックレスのデザイン画に見られるアイビーのモチーフを再解釈し、長いシルエットの「アンテイムド」ネックレスを形にした。いくつかのパーツに分けてネックレスの長さを変えたり、ブローチやヘッドジュエリーに形を変えたりすることができる。ロッククリスタルで出来た実や精巧に作られた葉、それらが揺れる構造など、写実的な表現が繊細だ。制作には2600時間を要したという。
「アンテイムド」ネックレス
text: Shunya Namba @Paris Office
photos: Boucheron